池部鈞
池部鈞の油彩画「睨み合い」は、1951年(昭和26)に制作された作品であり、現在は東京都現代美術館に所蔵されています。この作品は、風刺漫画家と洋画家の二つの顔を持つ池部鈞の画業の一側面を示すものとして、「没後55年 藤田嗣治と猫展」にて紹介されています。
制作背景・経緯・意図 作者である池部鈞は、1886年に東京で生まれ、1969年に83歳で逝去した日本の洋画家、そして風刺漫画家です。彼は東京美術学校(現東京藝術大学)の西洋画科を1910年に卒業し、同学年には藤田嗣治も名を連ねていました。初期には渡辺審也に師事し、画道を志しました。
画家としての活動と並行して、池部鈞は新聞社で政治や社会問題を風刺する漫画を手がけ、「トバエ」「漫画」といった複数の漫画誌の創刊に参加するなど、漫画界の第一人者としても活躍しました。油絵においては、1921年の帝展に「大道芸人」を出品して以降、官展で作品を発表し続け、1928年の第9回帝展では「少女球戯図」、1930年の第11回帝展では「踊」が特選を受賞するなど、高い評価を得ました。
彼の作風は、市井の人々や日常生活を対象に、鋭い観察眼と簡潔に要約された把握力で描かれることで知られています。作品「睨み合い」が制作された1951年は、彼が長年の画業を通じて培ってきた表現力が円熟期を迎えた時期にあたります。具体的な制作意図は詳細に語られていませんが、対象を深く見つめ、その本質を捉えようとする池部鈞の一貫した姿勢が反映されていると考えられます。
技法や素材 「睨み合い」は、キャンバスに油彩で描かれた作品です。油彩画の特性を活かし、色彩や筆致によって情景や人物の感情を表現しています。池部鈞は、現実世界から題材を得て、それを独自の視点で再構築する絵画表現を得意としていました。
意味 作品名「睨み合い」は、絵画に描かれた対象同士の緊迫した視線の交錯や、何らかの対峙する状況を示唆しています。池部鈞の作品が持つ、市井の人々や生活への観察眼という特徴から、日常の中に潜む人間関係の機微や、あるいは動物同士の瞬間的なやり取りなどが描かれている可能性が考えられます。本作品が「藤田嗣治と猫展」で展示されることから、猫を含む動物の描写や、人間と動物の関係性の中に「睨み合い」のテーマを見出すこともできるでしょう。
評価や影響 池部鈞は、漫画家としての功績だけでなく、洋画家としてもその実力を高く評価されました。彼は1938年に一水会の会員となり、後には一水会運営委員や日展評議員を務めるなど、美術団体においても重要な役割を担いました。1966年には「美人一列」で日本芸術院恩賜賞を受賞し、翌1967年には勲四等旭日小綬章を受章するなど、日本美術界におけるその功績は広く認められています。彼の作品は、東京都現代美術館をはじめとする主要な美術館に収蔵されており、日本の近現代美術史において重要な位置を占めています。