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猫と子ども

山口薫

没後55年 藤田嗣治と猫展にて展示されている、山口薫の油彩画「猫と子ども」についてご紹介します。この展覧会は、画家・藤田嗣治が日本洋画において猫というモチーフを独自の主題へと押し上げたことを出発点とし、日本の洋画家たちが描いた猫の絵画史を多角的に紹介するものです。

作家:山口薫について 山口薫は1907年、群馬県に生まれ、1968年に東京でその生涯を閉じました。 東京美術学校(現在の東京芸術大学)で西洋画を学んだ後、1930年から約3年間フランスに留学し、エコール・ド・パリ(パリ派)の影響を受けました。 帰国後は、日本におけるモダンアート運動の中心的人物として活動し、新時代洋画展、自由美術家協会、そしてモダンアート協会を仲間たちと次々と結成し、作品を発表し続けました。 彼の作品は、抽象と具象が微妙に溶け合ったモダンな造形の中に、叙情性と幻想性を湛えた心象風景を描き出すことで知られています。 また、優しい色使いで詩情あふれる絵画を多く生み出し、国内外で高く評価されました。 1958年にはグッゲンハイム国際美術展日本国内賞、1959年には毎日美術賞、1960年には芸術選奨文部大臣賞など、数々の栄誉ある賞を受賞しています。

作品「猫と子ども」について

  • 制作背景と意図 作品「猫と子ども」は1960年代に制作されました。山口薫は、生涯を通じて故郷の田園風景や家族、そして牛や馬といった動物たちを描き、生命の喜びや苦悩といった強い想いを作品に込めています。 特に戦後の作品には、人間と動物との素朴な関わりや、子どもの純粋な世界への深い眼差しが見られます。この「猫と子ども」も、そうした山口薫の内面世界と生命への洞察から生まれたものと考えられます。

  • 技法と素材 本作はキャンバスに油彩で描かれています。山口薫の制作方法は、絵具を塗り重ねるだけでなく、時には絵具を剥ぎ取りながらフォルムを探るという独特の技法を用いていました。 これにより、画面には単なる写実を超えた、深みのある質感と詩情豊かな表現がもたらされています。彼の作品に見られる色彩は、滞欧時代に学んだ新しい造形と、日本的な叙情が融合した「山口薫らしさ」が発揮されています。

  • 作品の意味 「猫と子ども」というモチーフは、無垢で純粋な存在である子どもと、自由で神秘的な動物である猫との間に生まれる、温かくも幻想的な関係性を描いています。山口薫の作品は、しばしば「知と情、澄明と混沌、来世と現世」といった対峙する様々な概念を内包しながらも、古典的な静謐さと心地よいリズムを響かせます。 この作品においても、猫と子どもの姿を通して、日常の中に潜む普遍的な生命の尊厳や、叙情的な情景が表現されていると言えるでしょう。

  • 評価と影響 山口薫の作品群は、日本のモダンアート運動において重要な役割を果たし、後進の多くの画家たちに影響を与えました。 「猫と子ども」が展示されている「没後55年 藤田嗣治と猫展」のような企画展では、藤田嗣治が切り開いた猫の絵画の系譜の中で、山口薫が独自の視点と技法でこの主題をどのように表現したのかを比較し、その普遍的な魅力と芸術的意義を再認識する機会を提供しています。 彼の作品は、日本の洋画史における個性的な猫の表現の一端を示すものとして、高く評価されています。