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白猫

熊谷守一

「没後55年 藤田嗣治と猫展」にて展示される熊谷守一の作品「白猫」をご紹介します。

作品概要

「白猫」は、画壇の仙人と称された画家、熊谷守一(くまがいもりかず)が1960年代に制作した油彩作品です。板に油彩で描かれており、現在はH. N. コレクションが所蔵し、本展では前期に展示されます。豊島区立熊谷守一美術館では、1959年制作の「白猫」が同館の「看板猫」とも称される代表作として常設展示されています。

制作背景と意図

熊谷守一は、97歳まで絵を描き続けた長命の画家であり、特に1956年に脳卒中を発症して以降の晩年は、東京・豊島区の自宅敷地からほとんど外出せず、庭の草木やそこに集まる小さな生き物を一日中観察して描くという独自の生活を送りました。この時期、猫は彼にとって最も身近で愛されたモチーフの一つとなり、数多くの作品に残されています。熊谷は、犬の忠実さよりも、自由気ままな猫の性質を好んだと言われています。

「白猫」に描かれている猫は、画家・猪熊弦一郎の夫人から譲り受けた「ハイコ」という名の灰色の猫であったという説や、当時自宅で飼っていた別の白猫、あるいは出入りしていた野良猫の姿を捉えたものとも考えられています。晩年の作品に共通する彼の自宅での制作は、孤高の姿勢を反映しつつも、身近な対象への深い愛情が込められています。

技法と素材

熊谷守一の画風は、長い画業の中で大きく変化しましたが、晩年に確立されたものは「熊谷様式」あるいは「モリカズ様式」と呼ばれています。この様式は、対象の形態を極端に単純化し、それを囲む明確な輪郭線(彼の作品では赤色の輪郭線が特徴として現れることもあります)、そして平面的な色彩で構成されることが特徴です。一見するとシンプルな表現に見えますが、緻密なスケッチに裏打ちされたものです。

「白猫」においても、線と面で画面をはっきりと区切り、筆で均一に塗り重ねる平塗りの技法が用いられています。この単純化された構成の中にも、色や線描における洗練された工夫が凝らされており、描かれた猫に生き生きとした生命感を与えています。使用されている素材は「板、油彩」であり、熊谷の独特な絵肌を形成しています。

作品の持つ意味と評価

熊谷守一の猫の作品群は、彼の代表作として広く知られています。彼は猫の姿を通して、自由で奔放な生命のあり方を表現しました。作品から伝わるのは、身近な生き物に対する画家の深い愛情と真摯な眼差しです。また、彼の作品は、文字の意味、造形、アリやカエル、花といったあらゆる命、そして人間の姿を等価に、無意味な偏見なく捉えていたという解釈もされています。

「白猫」は、豊島区立熊谷守一美術館において開館当初からの「看板猫」として親しまれるなど、彼の代表作の一つとして高い評価を受けています。その独特な画風と、見る者に安らぎとユーモラスさを与える猫の描写は、世代を超えて多くの人々に愛されています。

本展「没後55年 藤田嗣治と猫展」は、藤田嗣治をはじめ、日本の洋画家たちが猫を主題として独自に発展させた絵画史を紹介するものであり、熊谷守一の「白猫」がその一翼を担う重要な作品として展示されています。彼の作品は、そのポップで親しみやすい印象から、日本の抽象絵画の巨匠の一人としても位置づけられています。