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猫恋人(ねこらばさん)

木村荘八

木村荘八《猫恋人(ねこらばさん)》

本作品は、画家・随筆家・版画家として多岐にわたる活躍を見せた木村荘八(1893-1958)による「猫恋人(ねこらばさん)」です。藤沢市が所蔵する「招き猫亭コレクション」の一つであり、紙に墨と彩色を用いて描かれています。この作品は、現在開催中の「フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫」展にて展示されています。

制作背景・経緯・意図

木村荘八は、終生にわたる無類の愛猫家として知られています。自宅では常に複数の猫と共に過ごし、その日常が創作活動にも深く影響を与えました。彼の作品には、猫の姿がしばしば登場し、特に私的な書簡に添えられた絵入り手紙では、自由奔放かつ軽妙洒脱な筆致で猫が描かれました。本作品「猫恋人」は、洋画家たちが多様な猫の姿を描き始めた時代背景の中で、流行歌から着想を得て制作された「ハイカラな猫の絵」の一つとされています。これは、単なる写実を超え、猫にまつわる文化や感情を作品に落とし込むという木村の制作意図を物語っています。

技法や素材

作品は「紙、墨、彩色」という素材を用いています。木村荘八は洋画家でありながら、江戸文化や明治風俗への造詣が深く、日本画の要素も取り入れた独特の表現を展開しました。墨による線描に彩色を施す技法は、彼の挿絵や版画作品にも見られる特徴であり、軽やかな筆致で対象の動きや表情を捉えることを可能にしています。これにより、猫のしなやかな姿や個性的な表情が、見る者に直接的に伝わるよう工夫されています。

作品の持つ意味

「猫恋人」に描かれた猫は、「ツンとすましたおしゃれでモダンな猫」と評される木村荘八の猫表現を象徴しています。これは、日本の洋画家たちが、西洋の動物絵画とは異なる独自の視点で猫を描き始めた時代の流れを反映しています。単なる愛玩動物としてではなく、どこか人間味を帯びた、あるいは都会的な魅力を備えた存在として猫を捉えることで、鑑賞者に親しみやすさと同時に、深い共感を呼び起こします。作品名は「猫恋人(ねこらばさん)」と、ひらがなとカタカナを組み合わせたユニークな表記で、当時の流行や遊び心を感じさせます。

評価や影響

木村荘八の猫の絵は、そのユーモラスかつ叙情的な描写で高く評価されてきました。例えば、代表的な猫作品の一つである「猫の銭湯」は、猫たちの表情や仕草が愉快に描かれ、見る者を和ませると評されています。また、小説家大佛次郎との協業では、木村の挿絵が大佛の小説の成功に寄与したとされ、互いの作品を高め合う関係でした。本作品「猫恋人」が「招き猫亭コレクション」に収蔵され、さらに「フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫」展という、近代洋画における猫の表現を検証する重要な展覧会で展示されることは、木村荘八が日本の近代美術史において、猫というモチーフを通じて独自の地位を確立したことの証しと言えます。彼の描く猫たちは、藤田嗣治以降の日本の洋画家たちの猫の表現の多様性を理解する上で、重要な一例となっています。