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三毛猫木瓜の図

河野通勢

没後55年 藤田嗣治と猫展 出品作:河野通勢《三毛猫木瓜の図》

たましん美術館で開催中の「没後55年 藤田嗣治と猫展」にて展示されている河野通勢の作品《三毛猫木瓜の図》は、画家独自の細密な描写と、日本画の技法が融合した一点です。

制作背景と技法 河野通勢(こうの みちせい、1895-1950)は、大正から昭和にかけて活躍した画家であり、岸田劉生や武者小路実篤にも絶賛された早熟の天才と評されています。彼は美術教師で写真館を営んでいた父・河野次郎の影響を受け、ルネサンスをはじめとする西洋古典絵画から強い影響を受けました。また、9歳でハリストス正教の洗礼を受けており、その信仰心は多くの作品の主題に反映されています。

当初は洋画を独学で学び、岸田劉生率いる草土社に参加し、その影響を受けた細密な写実表現を特徴としました。その後、日本画も手がけるようになり、油彩画でありながら金雲で画面を構成するなど、和洋折衷の試みも見せています。

この《三毛猫木瓜の図》は「紙、墨、彩色」という素材が示す通り、日本画の様式で描かれています。河野の真骨頂である徹底した写実描写は、墨の濃淡と彩色によって三毛猫の毛並みや表情、そして木瓜の柔らかな花弁と葉の質感に余すところなく表現されています。西洋絵画で培った精緻な観察眼と描写力が、日本の伝統的な画材を通して昇華された作品と言えるでしょう。

作品の意味 本作品が描かれた具体的な意図については、詳細な記録は少ないものの、河野通勢の作品に共通する深い精神性が反映されていると考えられます。特に、藤田嗣治が西洋画において脇役であった猫を主役として描き、日本の洋画における猫の主題を確立した背景を考えると、本作品もまた、猫という存在への深い眼差しと、その生命力を丹念に写し取ろうとする画家の姿勢が伺えます。

三毛猫は、日本では古くから縁起の良い動物として親しまれ、特に幸運や金運を招く象徴とされることがあります。また、背景に描かれている木瓜の花は、春の訪れを告げる花として、生命力や美しさを象徴すると考えられます。河野は、これらのモチーフを写実的に捉えることで、個々の存在が持つ美しさや生命の輝きを表現しようとしたのではないでしょうか。

評価と影響 河野通勢の作品は、その精密で存在感あふれる写実描写によって、個性豊かな大正期の美術界において異彩を放っていました。彼の「空想と聖性をはらんだ作品群」は、奇想にも似た想像力を発揮する近代の画家の中でも類例を見ない表現と評されています。

近年、未発表作品が大量に発見されたことにより、河野通勢の画家像の再検討が進められ、その多岐にわたるジャンルと画風、そして同時代の美術史における重要性が改めて評価されています。本作品もまた、彼の画業の多様性と、日本の伝統的な素材を用いながらも西洋の写実精神を宿す独自の表現を理解する上で、貴重な作品と言えるでしょう。