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猫の顔

藤田嗣治

この度は、「没後55年 藤田嗣治と猫展」にて展示される藤田嗣治の作品「猫の顔」をご紹介します。

作品概要

アーティスト名:藤田嗣治 作品名:猫の顔 制作年:1950-60年代 技法・素材:紙、墨、彩色 所蔵:H. N. コレクション

解説

本作品「猫の顔」は、20世紀を代表する画家の一人、藤田嗣治(レオナール・フジタ)が1950年代から60年代にかけて制作した、紙に墨と彩色で描かれた一点です。藤田嗣治は、生涯を通じて猫を深く愛し、その姿を数多くの作品に描き続けました。彼にとって猫は単なるペットではなく、友人であり、家族のような存在であったと語られています。藤田の作品に猫が登場し始めるのは1921年頃、拾った猫を飼い始めたことがきっかけでした。彼は、女性と猫の間に共通する性質を見出し、「女はまったく猫と同じ」と述べ、愛でれば従順である一方、そうでなければ引っ掻くといった二面性を指摘しています。猫をモチーフにすることで、その柔和な面と猛々しい面という二通りの性格を描き分けられる点に魅力を感じていました。

「猫の顔」に見られるように、藤田は猫の持つ豊かな表情や仕草、そして柔らかな毛並みを卓越したデッサン力と観察眼によって捉えています。作品に用いられている「紙、墨、彩色」という技法は、彼の制作活動において重要な要素でした。藤田は、西洋画壇で絶賛された独自の「乳白色の肌」の表現で知られますが、その背景には日本画の技法、特に浮世絵にヒントを得た、紙の白さを生かす手法や、細く流麗な墨の線で輪郭を描く技法がありました。 この繊細な墨の線は、猫の毛一本一本の質感や、しなやかな体の動き、そして表情に宿る生命感を際立たせる効果をもたらしています。1950年代から60年代という時期は、藤田がフランス国籍を取得し(1955年)、カトリックに改宗する(1959年)など、画家としての人生において大きな転機を迎えた時期にあたりますが、この間も猫への深い愛情は変わらず、作品に表現され続けていました。例えば、1962年制作の「猫を抱く少女」に見られるような、その瞬間の猫の姿を捉えた生き生きとした描写は、この時期の彼の猫に対するまなざしをよく示しています。

藤田嗣治は、西洋絵画において脇役とされることが多かった猫というモチーフを、魅力的な主題として確立した画家として評価されています。彼の猫の絵は、その写実性だけでなく、猫の本質を見抜いたような鋭い洞察と、見る者の心を捉える愛らしさによって、現在もなお多くの人々に愛され、高い人気を誇っています。 「猫の顔」は、藤田が晩年に至るまで探求し続けた猫という存在への敬意と愛情、そして東洋と西洋の美意識を融合させた独自の画風を象徴する作品の一つと言えるでしょう。