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ヴァンドーム広場 (『魅せられたる河』より)

藤田嗣治

藤田嗣治の作品、「ヴァンドーム広場(『魅せられたる河』より)」をご紹介します。

作品の背景と意図

本作品「ヴァンドーム広場」は、フランスで活躍した画家、藤田嗣治が1951年(昭和26年)に65歳の誕生日を記念して出版した豪華挿画本『魅せられし河(La Rivière Enchantée)』に収められた一点です。フランスの古文書学者ルネ・エロン・ド・ヴィルフォスが執筆した文章に、藤田が挿絵を手がけました。この挿画本は、パリのフォーブール・サントノレ通りを「川」に見立てた文章に、当時のパリの街並みや市民の営みを活き活きと描いた作品群で構成されています。藤田が1913年に初めてパリを訪れて以来、長きにわたり過ごしたパリへの深い愛情と郷愁にも似た感情が込められており、彼が最後に渡仏した翌年に制作されたことから、特別な意味を持つ作品集とされています。 「ヴァンドーム広場」は、ほぼ同時期に制作された油彩画と類似した構図を持つとされています。

技法と素材

本作品は、紙にエッチングの技法を用いて制作されています。エッチングは銅版画の一種であり、銅板に直接描くのではなく、腐食作用を利用して版を制作する手法です。これにより、繊細で流麗な線描表現が可能となります。この作品においては、エッチングに加えて着色が施されているものも存在します。 藤田嗣治は生涯を通じて多くの版画を手がけ、エッチングの他にもドライポイントやアクアチントなど、多様な銅版画技法を駆使して作品を制作しました。

作品が持つ意味

「ヴァンドーム広場」は、パリ1区に位置するヴァンドーム広場を望む部屋の窓辺が描かれています。広場のアウステルリッツの記念柱、室内に置かれたオブジェ、そしてくつろぐ猫といったモチーフが画面に調和をもたらし、パリの独特な雰囲気を伝えています。 この作品は、藤田が単なる人物画だけでなく、風景画家や静物画家としての才能も持ち合わせていたことを示す一面でもあります。 『魅せられし河』に収められたパリの街頭風景や享楽的な場所を描いた作品群は、藤田自身の半生を物語る自叙伝的な色彩が濃いと評価されています。

評価と影響

挿画本『魅せられし河』は、藤田嗣治の版画作品の中でも特に優れた代表作の一つとして高く評価されています。 この作品集の発表は、藤田がパリ市から勲章を授与され、二度目のレジオン・ドヌール勲章を受章するきっかけとなりました。 今日においても、この挿画本は藤田の数ある作品の中でも傑作とされ、高い人気を誇っています。 特に「ヴァンドーム広場」は、藤田の作品の中でも国際的に高い評価を得ており、高額で取引されることが多い作品です。 近年では、軽井沢安東美術館の創設者である安東泰志氏が、この「ヴァンドーム広場」の版画との出会いを機に藤田作品の収集を始め、美術館設立に至ったというエピソードも知られています。