藤田嗣治
「没後55年 藤田嗣治と猫展」にて展示される藤田嗣治の油彩画「猫二匹」は、1924年(大正13年)に制作された作品です。本作品は絹を支持体とし、油彩で描かれ、たましん美術館に所蔵されています。
「猫二匹」が制作された1924年頃は、藤田嗣治がパリを拠点に「エコール・ド・パリ」の画家として国際的な評価を確立し、「狂乱の時代」と呼ばれた1920年代のパリ画壇で寵児となった絶頂期にあたります。 この時期、藤田は裸婦像と並び、猫を主要なモチーフとして数多く描きました。藤田は猫を深く愛し、時にモデルとして、時に心の友として傍らに置いていました。 猫は藤田にとって、単なるペットではなく、自身の分身やサインのような存在であり、自画像や裸婦像の隣に描かれることも多く、作品の中で重要な役割を担っていました。 本作品においても、二匹の猫を主題とすることで、彼らの持つ神秘性や愛らしさ、そして時に見せる野性的な一面を描き出そうとしたと考えられます。
「猫二匹」は、西洋絵画の主要な素材であるキャンバスではなく、日本の伝統的な絵画で用いられる絹を支持体としています。これは、藤田が日本画の繊細な表現や素材感を油彩画に取り入れ、東洋と西洋の芸術を融合させようとした独自の試みの一端を示しています。
藤田の作品の最大の特徴は「乳白色の肌」と呼ばれる独特の絵肌です。 これは、彼が苦心の末に独自に調合した絵の具によるもので、陶器のような光沢を持ちながら温かみのある質感が特徴です。 この乳白色の絵肌は、猫のしなやかな体の曲線や柔らかな毛並みを表現するのに特に適していました。 また、極めて細い線で描かれる毛並みや輪郭線は、浮世絵など日本の伝統的な線描の技法からヒントを得たものであり、油彩でありながらも日本画のような繊細な描写を可能にしています。 生前、そのレシピは一切明かされず秘密にされていましたが、死後に修復された際に研究が行われています。
藤田にとって猫は、人間と同じように個性を持った存在として描かれました。彼は猫を「友達であり、家族」と語っており、その姿は気まぐれで野性的でありながら、時に甘えるような生きた表情を見せています。 「猫二匹」に描かれた二匹の猫は、互いに寄り添う姿や異なる表情を見せることで、彼らの間の関係性や、猫が持つ多面的な魅力、そして画家の猫への深い愛情を象徴していると考えられます。西洋絵画では脇役とされることが多かった猫を、あえて主役に据えることで、猫の内面的な生命力を際立たせ、見る者に多様な感情を喚起させます。
藤田嗣治の猫の絵は、彼の代表的なモチーフの一つとして、乳白色の裸婦像と並び高い人気を博しました。 1920年代のパリ画壇において、西洋の伝統ではそれまで主要なテーマとされてこなかった猫を、独自の技法と感性で魅力的な主題へと昇華させたことは、革新的な試みとして評価されました。 その後、日本の洋画家たちも猫を魅力的なテーマとして描くようになり、藤田嗣治は日本の近代洋画における「猫の絵」の歴史に大きな影響を与えたとされています。 彼の作品は、時代や国境を越えて多くの人々を魅了し続け、その繊細な筆致と独特の世界観は、今なお高く評価されています。