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虎耳草猫図

原在明

原在明「虎耳草猫図」の紹介

この度、「没後55年 藤田嗣治と猫展」において、江戸時代後期の絵師、原在明(はら ざいめい)による作品「虎耳草猫図(こじそうねこず)」が紹介されます。本作品は、19世紀前半の江戸時代後期に制作され、絹本彩色によって描かれた一幅で、現在は摘水軒記念文化振興財団に所蔵されています。

制作背景・経緯・意図

原在明は、安永7年(1778年)に京都で原派の二代目として生まれ、天保15年(1844年)に没した江戸時代後期の絵師です。父である原在中から画法を学び、古画の模写を通じて有職故実(ゆうそくこじつ)にも精通していました。宮廷の御用を務めるなど、当時の画壇で高い評価を得ていたことが窺えます。

猫は、江戸時代から人々の身近な存在として親しまれ、数多くの日本画に描かれてきました。中国絵画の伝統においては、猫の「猫(マオ)」が70歳を意味する「耄(モウ)」と音が通じることから、長寿を願う吉祥画のモチーフとして用いられることがありました。原在明もまた、「仔猫観蝶図」など、猫を主題とした作品を手がけています。本作品「虎耳草猫図」も、こうした猫に対する人々の愛着や、吉祥の願いを込めた意図のもとに描かれたと考えられます。

技法と素材

本作品は「絹、彩色」と記されている通り、絹の支持体に顔料で彩色を施す、日本画の伝統的な「絹本着色(けんぽんちゃくしょく)」の技法が用いられています。原在明は、その繊細な筆致による細緻な表現において評価されており、動物の柔らかな毛並みや、ふっくらとした量感を巧みに描き出すことに長けていました。これらの描写は、当時の上質な絹と、鮮やかな発色を持つ岩絵具などの顔料を駆使して実現されています。

作品の意味

作品名にある「虎耳草(こじそう)」は、一般に「ユキノシタ」として知られる植物の別名です。その名の由来は、葉の形が虎の耳に似ていることにあります。ユキノシタは古くから民間薬としても利用され、解毒作用や消炎作用があることで知られています。また、ユキノシタの花言葉には「深い愛情」「博愛」「恋心」「好感」といった意味が込められています。

「虎耳草猫図」では、愛らしい猫と、生命力や薬効、そして「深い愛情」を象徴する虎耳草が組み合わされることで、単なる写実を超えた、見る者の心に安らぎや幸福を願う意味合いが込められていると解釈できます。

評価と影響

原在明は、江戸時代後期の京都画壇において重要な位置を占める原派の絵師として、宮廷からの信頼も厚く、正倉院の宝物記録図制作に携わるなど、その実力は高く評価されていました。

本作品「虎耳草猫図」は、摘水軒記念文化振興財団のコレクションに収蔵されており、現代においても「没後55年 藤田嗣治と猫展」のような企画展で展示されることで、江戸時代における猫の美術表現の一端を現代に伝える貴重な資料として、多くの鑑賞者に紹介される機会を得ています。江戸時代の猫絵は、その愛らしさやユーモラスな表現が現代の猫好きにも共感を呼び、国内外で高く評価されています.