シャルル・アングラン Charles Angrand
シャルル・アングラン《サン=トゥアンのセーヌ川、朝》
本作品は、1886年にフランスの画家シャルル・アングランによって制作された油彩画《サン=トゥアンのセーヌ川、朝》です。現在開催中の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」において展示されており、フィンセント・ファン・ゴッホが影響を受けた同時代の画家たちの作品の一つとして紹介されています。
背景・経緯・意図 シャルル・アングラン(1854-1926)は、1880年代から1890年代にかけてパリの前衛芸術シーンで活躍したフランスの画家であり、「新印象派」の主要な一人です。アングランはルーアンで美術を学んだ後、1882年にパリへ移住し、数学教師として働きながら絵画制作を続けました。この時期、彼はジョルジュ・スーラ、ポール・シニャック、フィンセント・ファン・ゴッホといった多くの前衛芸術家たちと交流を深めました。1884年には、スーラやシニャックらと共にアンデパンダン美術協会の創立メンバーに加わり、美術界の新しい動向を牽引しました。1886年は、印象派最後の展覧会が開催され、新印象派の画家たちが参加するなど、美術史における転換期にあたります。アングランの画風もこの頃、スーラやシニャックとの交流を通じて「新印象派」のスタイルへと変化していきました。 本作品が展示されている「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ファン・ゴッホ家が受け継いできたコレクションに焦点を当てた展覧会です。このコレクションには、ゴッホが影響を受けたり、交流したりした同時代の画家たちの作品も含まれており、《サン=トゥアンのセーヌ川、朝》もその一つとして、ファン・ゴッホ美術館の所蔵作品として出品されています。
技法や素材 本作は、1886年に油彩でカンヴァスに描かれました。アングランは、新印象派の代名詞ともいえる「点描(ディヴィジョニスム)」の技法を用いました。これは、絵具を混ぜ合わせずに、純粋な色の小さな点々をキャンバスに並置することで、鑑賞者の目の中で色が視覚的に混合される効果を狙うものです。これにより、作品は光の輝きと色彩の振動に満ちたものとなります。アングランの点描は、原色の組み合わせに限定されず、より中間色を用いることで、独特の落ち着いた調和を生み出すことがありました。
意味 《サン=トゥアンのセーヌ川、朝》は、パリ郊外のサン=トゥアンにおけるセーヌ川の情景を描いた風景画です。画面の多くが水面と空に占められており、朝の澄んだ空気感が伝わるような、静謐で広々とした構図が特徴です。新印象派の画家たちは、近代化が進む都市の周辺風景や、穏やかな自然の営みを科学的な色彩理論に基づいて表現しようとしました。この作品もまた、緻密な点描によって光と大気の微妙な変化を捉え、鑑賞者にセーヌ川の朝の清々しい雰囲気を伝えています。
評価や影響 シャルル・アングランは、当時のパリの前衛芸術運動において重要な位置を占める画家でした。彼の作品は、同時代の多くの芸術家たちに注目されました。特にフィンセント・ファン・ゴッホは、アングランの絵画に見られる「重厚な筆致」や「日本的な要素」に魅了され、1886年10月のアンデパンダン展でアングランの作品を見た後、作品の交換を申し出たという記録が残されています。 スーラもまた、アングランのコンテ画を「この世で最も美しい詩のようなドローイング」と称賛しました。 アングランの作品は、ゴッホの当時の画風にも影響を与えたと指摘されています。 本作品がファン・ゴッホ美術館に所蔵され、今回のゴッホ展で展示されていることは、アングランがゴッホの芸術的探求において重要な同時代人であり、その作品がゴッホの感性やコレクターとしての視点に影響を与えたことを示しています。