ジュール・バスティアン=ルパージュ Jules Bastien-Lepage
ここからは、展示作品「ブドウの収穫」についてご紹介します。
ジュール・バスティアン=ルパージュが1880年に油彩で描いた作品「ブドウの収穫」は、フランスの農村風景とそこに生きる人々の姿を写実的に捉えた一点です。バスティアン=ルパージュは1848年に農家に生まれ、生涯を通じて故郷の農村とのつながりを深く保ちました。彼は1867年にパリに出てエコール・デ・ボザールで学びましたが、1874年に描いた祖父の肖像画で農村の謙虚な生活を捉え、そのキャリアの転換点としました。
本作品は、1876年からバスティアン=ルパージュが本格的に取り組んだ農民画の一つであり、父がブドウ栽培を行っていたという彼自身の生い立ちが背景にあります。彼は農村の人々の厳しくも誠実な生活を理想化することなく描写することを意図しており、この写実的なアプローチはフィンセント・ファン・ゴッホにも大きな影響を与えました。
技法としては、油彩・カンヴァスが用いられています。この絵は「躍動感のある多様な筆致と色調」で描かれていると評されています。 遠近法、明るい色彩、そしてクローズアップされた構図は、彼の自然主義的な描写の中に近代性を示す要素でした。精密な写実主義に見えながらも、画面の大部分には筆致が明確に残されており、絵画的な表現が特徴です。
作品の意味合いとしては、動きが感じられる構成が特徴です。手前の女性が、ぶどう畑にいる男性たちに向かって振り返るような姿勢で描かれており、鑑賞者の視線は彼女の視線の先に、丘の向こうに迫る嵐へと導かれます。 空の鉛色の雲が、ブドウの収穫が予定通り始まるのかどうかという不確実性を示唆しているとも解釈される、どこか謎めいた物語性が込められています。
「ブドウの収穫」は、発表当時、批評家の中には賛否両論があったものの、大衆には非常に人気を博し、バスティアン=ルパージュの代表作の一つとされています。 2016年にアムステルダムのファン・ゴッホ美術館がこの作品を収蔵したことは特筆すべき点です。 ファン・ゴッホ美術館館長は、この作品が傑作であるだけでなく、ゴッホがいかに先人から影響を受けたかを示す重要なつながりであると述べています。 ゴッホは、バスティアン=ルパージュの農民の生活に対する誠実で飾り気のない描写を高く評価し、自身も農村の人々の生活を理想化せずに描こうとしました。
また、バスティアン=ルパージュの農村の人々を描く素朴な色調のスタイルは、19世紀後半のイギリスの多くの画家、特にグラスゴー・ボーイズに影響を与えました。 彼の作品自体も、クールベやミレーといった写実主義の画家、そしてマネの自由な筆致から影響を受けています。
本作品が展示される「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ファン・ゴッホの作品と夢がいかに家族によって守られ、広められ、現代に伝えられてきたかを探る展覧会です。 ゴッホを経済的、精神的に支えた弟テオ、そして彼の作品を世に広めることに尽力したテオの妻ヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲルなど、家族の役割に焦点を当てています。 この文脈において、「ブドウの収穫」は、ゴッホが自身の芸術の発展において深く敬愛した先駆者の一人であるバスティアン=ルパージュの作品として、その影響関係を具体的に示す重要な展示品となっています。