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ヴェルサイユ街道、ロカンクール Route de Versailles, Rocquencourt

カミーユ・ピサロ Camille Pissarro

カミーユ・ピサロ作「ヴェルサイユ街道、ロカンクール」は、印象派の創始者の一人であるカミーユ・ピサロが1871年に制作した油彩画です。この作品は、ファン・ゴッホ美術館が所蔵しており、今回の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」において展示されています。

作品の背景と経緯 カミーユ・ピサロは1830年、デンマーク領セント・トーマス島に生まれ、19世紀フランス印象派の中心的画家として知られています。彼は1874年から1886年にかけて計8回開催された印象派展すべてに参加した唯一の画家であり、「印象派の父」とも称されました。 本作が描かれた1871年、ピサロはパリ郊外のルーヴシエンヌ村に住んでいました。この地域は保養地として人気があり、クロード・モネ、アルフレッド・シスレー、ピエール=オーギュスト・ルノワールといった後の印象派の画家たちもこの地や近郊で制作活動を行っていました。 しかし、この時期は普仏戦争(1870-1871年)の最中であり、デンマーク国籍であったピサロは徴兵を避けるためロンドンへ避難していました。彼は戦後にフランスへ戻りますが、その間に自宅は破壊され、多くの初期作品が失われるという困難な状況にありました。そのような逆境にもかかわらず、ピサロは明るい雰囲気の作品を描き続けました。

技法と素材 本作は油彩、カンヴァスという古典的な素材が用いられていますが、その技法には初期印象派の特徴が明確に表れています。ピサロは、目の前の風景を屋外で直接描く「外光派(アン・プレン・エール)」の手法を重視しました。 「ヴェルサイユ街道、ロカンクール」では、小さく、薄く、しかし明確な筆致(「壊れた筆致」と呼ばれる)が用いられ、光の移ろいや大気の効果を正確に捉えようとしています。絵具はパレット上で混ぜ合わせるのではなく、キャンヴァスに直接置くことで、光の当たる道の効果を、砂や石の質感よりも重視して表現しています。また、多色使いの自由な筆致と長く伸びる青い影によって、光の効果が巧みに描写されています。 ピサロは、ロカンクールのヴェルサイユへ続く道の上向きの傾斜を強調し、木の細い水平の影を利用して道をより広く見せることで、広大な空間の錯覚を生み出しています。

作品の意味と評価 この作品は、当時のアカデミズム絵画が歴史画や宗教画、肖像画を重んじたのに対し、日常の風景を主題とすることで、印象派の新しい芸術的価値観を示す典型的な例となっています。 ピサロは、印象派のグループの中では最年長であり、温厚な人柄で、個性豊かな画家たちの間を取り持つ「長老」的存在でした。ポール・セザンヌやポール・ゴーギャンなどの若い画家たちにとっても良き師であり友人であり、彼らの才能を見抜く力に長けていました。 本作の展示されている「ゴッホ展」は、ゴッホと彼の家族のつながりに焦点を当てています。ファン・ゴッホ自身もピサロの作品に深く感銘を受けており、ピサロもまた若きゴッホの才能を認め、彼を大芸術家になると予言していました。 ピサロの作品がファン・ゴッホ美術館に所蔵され、今回の展覧会で紹介されることは、印象派という新しい潮流を築いた彼の貢献と、後の世代の芸術家たちに与えた多大な影響を示すものと言えるでしょう。