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カエル Frogs

シャルル=ルイ=M・ウダール Charles-Louis-M. Houdard

シャルル=ルイ=M・ウダール作「カエル」

東京都美術館などで開催される「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」において、シャルル=ルイ=M・ウダール(Charles-Louis-M. Houdard)の版画作品「カエル」が展示されます。この作品は1894年に制作されたアクアチントで、当時の美術潮流であるジャポニスムの影響を色濃く反映しています。

背景・経緯・意図 シャルル=ルイ=M・ウダールは19世紀後期から20世紀初頭にかけてパリで活動したフランス人画家、版画家です。彼はサミュエル・ビングが設立した「日本美術愛好家協会」の一員であり、葛飾北斎をはじめとする多くの浮世絵師の作品を収集していました。こうした背景から、ウダールは日本の浮世絵に影響を受けたジャポニスム作品を数多く発表しています。

「カエル」は、1894年頃に制作されたウダールの初期の色彩銅版画の一つであり、喜多川歌麿が1788年に発表した画本『画本虫撰』に影響を受けているとされています。日本の美術では、カエル、爬虫類、昆虫、アヤメといった自然のモチーフが頻繁に描かれ、歌川広重などが用いた極端なクローズアップの構図は、ウダールの独特な構図にも影響を与えました。彼の作品は、日本の美術からモチーフや構図のインスピレーションを得つつも、西洋の銅版画技法と伝統に基づいた緻密で立体的、かつ写実的な表現を追求している点が特徴です。

技法と素材 本作は「アクアチント」という銅版画の凹版技法を用いて、紙に刷られています。具体的には3色の色彩アクアチントが「シミリー・ジャポン紙」という紙に施されています。アクアチントは、線で表現するエッチングとは異なり、水彩画のような繊細な濃淡や面の表現を可能にする技法です。

制作過程では、まず金属板に粉末状の松脂などの防蝕剤をまき、加熱して定着させます。その後、腐蝕液に浸すことで、防蝕剤の隙間から露出した部分が砂目状に腐蝕されて凹みが作られます。この腐蝕時間や防蝕剤の粒子の大きさによって濃淡が調整され、微妙な色調が表現されます。ウダールは、画家であり版画印刷業者でもあったウジェーヌ・デュラートルの技術を活用し、水彩画やモノクロの銅版画で描かれてきた風景の立体的かつ精密な描写を色彩銅版画で実現しました。

意味と評価・影響 「カエル」は1894年にパリの版画集「L'Estampe Originale」第8集として刊行されました。この版画集は19世紀末の重要なオリジナル版画の刊行物であり、ウダールの作品が当時の美術界で評価されていたことを示しています。

本作品が「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」に展示されることは、その芸術的価値と、フィンセント・ファン・ゴッホが生きた時代における広範な芸術的文脈との関連性を示唆しています。この展覧会は、ファン・ゴッホ家が受け継いできたコレクションに焦点を当てており、ファン・ゴッホ美術館のコレクションには、ファン・ゴッホの作品だけでなく、当時の他の芸術家の作品も含まれています。これは、ファン・ゴッホの芸術環境や、彼自身の作品にも見られるジャポニスムなど、当時の主要な芸術的影響を理解するための貴重な文脈を提供します。ウダールが日本の浮世絵に深く傾倒し、その影響を西洋の版画技法で表現したことは、19世紀後半のヨーロッパにおけるジャポニスムの広がりと多様な展開を理解する上で重要な作品と位置づけられています。