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靴職人 The Shoemakers

レオン=オーギュスタン・レルミット Léon-Augustin Lhermitte

本作品は、レオン=オーギュスタン・レルミットが1880年4月に制作した「靴職人」であり、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」にて展示されています。黒チョークを用いて紙に描かれたこの作品は、レルミットの主要な主題である農村の風景や農民の日常を写実的に捉える彼のスタイルをよく示しています。

制作の背景・経緯・意図

レオン=オーギュスタン・レルミットは、19世紀末のフランスにおいて「写実主義」および「自然主義」を代表する画家として知られています。彼は主に農村の情景やそこで働く人々を題材とし、ジャン=フランソワ・ミレーの作品から強い影響を受けていました。ミレーが農民の姿を英雄的に描いたのに対し、レルミットはより日常的で自然な描写を追求しました。

本作「靴職人」が制作された1880年は、レルミットが画家としての評価を確立しつつあった時期にあたります。彼の作品は、当時の労働者階級の尊厳と彼らの生活の厳しさを静かに表現することを意図しており、社会的な関心と共感を呼びました。

特に注目すべきは、フィンセント・ファン・ゴッホがレルミットの作品を高く評価していた点です。ゴッホはレルミットを「ミレー二世」と称し、彼の構図を深く敬愛していました。ゴッホが弟テオに宛てた手紙では、レルミットの作品に触れるたびに深い感銘を受けると記しています。この「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」というタイトルが示すように、ゴッホが憧れ、芸術的な夢を共有した画家の一人として、レルミットの作品が選ばれた経緯があります。

技法や素材

「靴職人」は、1880年4月に黒チョークで紙に描かれました。レルミットは油彩、パステル、木炭画など多様な技法に長けていましたが、特にデッサンにおいては卓越した能力を発揮しました。彼の師であるオラース・ルコック・ド・ボワボードランの教育方針から、ジェスチャーと主題を重視した描写を身につけていたことが、彼の作品に表れています。

黒チョークという単一の色材を用いることで、光と影のコントラストや、対象の持つ質感、そして働く人々の集中した表情や手の動きがより際立って表現されています。限られた色彩の中で、人物の存在感と空間の奥行きが巧みに描写されているのが特徴です。

作品が持つ意味

本作品は、当時の職人の労働、特に手作業で靴を作る靴職人の営みを写実的に描写しています。レルミットは、都市や農村で働く人々の日常風景を通じて、彼らの労働が持つ意味や、地道な作業の中に宿る尊厳を表現しました。

「靴職人」に描かれた人物たちは、自身の仕事に没頭しており、その姿は見る者に、時代を超えた労働の本質を問いかけます。彼らの生活を理想化することなく、ありのままに捉えるレルミットの姿勢は、自然主義絵画の重要な側面を示しています。

評価と影響

レオン=オーギュスタン・レルミットは生前から高い評価を受けていました。彼は1884年にフランスのレジオンドヌール勲章を受章し、1889年のパリ万国博覧会では絵画部門で大賞を受賞しています。

彼の作品は、その写実的な描写と、労働者階級への共感から多くの人々に支持されました。とりわけフィンセント・ファン・ゴッホへの影響は大きく、ゴッホはレルミットの作品を自身の芸術的探求の重要な手本の一つと見なしていました。ゴッホが農民や労働者の姿を描く上で、レルミットの作品は重要な示唆を与えたと考えられています。

レルミットはバルビゾン派の自然主義を基礎としつつも、印象派に近い明るい色彩と筆致を取り入れた「ペインチュール・クレール」という技法を確立し、農村画における国際的な名声を博しました。彼の穏やかで理想化された農村風景は、後の世代の画家たちにも影響を与え続けています。