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ベンチに座る4人の人物と赤ん坊が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙 Letter to Anthon van Rappard with sketch of Four People and a Baby on a Bench

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」にて展示されているフィンセント・ファン・ゴッホの作品、「ベンチに座る4人の人物と赤ん坊が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙」についてご紹介します。この手紙は、1882年9月12日から17日頃、ハーグにてペン・インク、紙を用いて制作されました。

制作背景と経緯、意図

この手紙は、フィンセント・ファン・ゴッホがオランダ時代に交流を深めた画家アントン・ファン・ラッパルトに宛てたものです。ゴッホは、弟テオをはじめとする家族や友人との間で膨大な数の手紙を交わしており、その多くには自身のスケッチが添えられていました。これは単なる便りではなく、自身の芸術的な思想や制作の進捗を伝える重要な手段であり、また、時には自身の感情や考察を率直に表現する場でもありました。

1882年、ハーグに滞在していたゴッホは、画家になる決意をしてから数年しか経っておらず、デッサンに集中的に取り組んでいました。当時の彼の関心は、労働者階級や貧しい人々の生活を描くことにあり、彼らの姿を観察し、スケッチとして残すことを通じて、人間性や社会の現実を深く探求しようとしていました。この手紙に添えられたスケッチも、こうした彼の初期の芸術的探求の一環として描かれたものです。

技法と素材

本作は、ペンとインクを用いて紙に描かれたスケッチが手紙に記されています。ゴッホは、鉛筆や木炭によるデッサンから、より明確な線表現が可能なペン・インクへと移行する時期があり、日本の浮世絵から受けた影響が、陰影を排した線描へと向かうきっかけの一つになったとも考えられています。この技法は、対象の素早い捉え方や、感情の直接的な表現に適しており、彼の初期の作品において重要な役割を果たしました。手紙に直接描かれることで、よりパーソナルかつ即興的な性質を帯びています。

作品が持つ意味

「ベンチに座る4人の人物と赤ん坊が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙」に描かれたスケッチは、当時のゴッホが日常生活や人々への深いまなざしを持っていたことを示しています。彼は、道行く人々や働く人々、そして家族の営みといった、ごくありふれた光景の中に芸術の主題を見出そうとしました。このスケッチに描かれたベンチに座る人々と赤ん坊の姿は、当時のハーグの人々の穏やかな日常の一コマを切り取ったものであり、ゴッホの人間観察と共感の精神が表れています。手紙に描かれたスケッチは、彼の絵画作品を理解する上で不可欠な、アイデアの源泉や試行錯誤のプロセスを示す貴重な資料です。

評価と影響

ゴッホが生涯で自身の絵画をほとんど売ることができなかったにもかかわらず、彼の死後、その作品が世界的に評価されるようになった背景には、弟テオとその妻ヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲル(ヨー)の献身的な努力がありました。ヨーは、ゴッホ兄弟が交わした膨大な数の手紙を整理し、出版することに人生を捧げました。これらの手紙、特にスケッチが添えられたものは、ゴッホの芸術観、制作プロセス、そして彼自身の苦悩や希望を知る上で極めて貴重な一次資料となり、彼の人間像と芸術性を深く理解するための鍵となっています。

本作品が展示される「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ファン・ゴッホ家が受け継いできたコレクションに焦点を当てており、日本で初公開となるゴッホの手紙4通も展示されるなど、その歴史的価値と美術史における重要性が再認識されています。この手紙に描かれた素朴なスケッチは、後に世界を感動させるゴッホの芸術の萌芽を物語る、重要な一章と言えるでしょう。