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オリーブ園 Olive Grove

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢で展示される「オリーブ園」は、フィンセント・ファン・ゴッホが1889年11月にサン=レミードープロヴァンスで制作した油彩、カンヴァス作品です。

制作の背景・経緯・意図

フィンセント・ファン・ゴッホは、1888年12月にアルルで「耳切り事件」を起こした後、自ら希望して1889年5月にサン=レミードープロヴァンスのサン=ポール=ド=モーゾール修道院を改装した精神療養院に入院しました。約1年間をこの療養院で過ごし、不安定な精神状態を抱えながらも、多くの傑作を生み出しています。療養院では病室以外の1室をアトリエとして使用する許可を得ていたほか、施設外に出て絵を描くことも許されていました。ゴッホはこの地で、修道院の庭や周囲のオリーブ畑、糸杉、小麦畑といったプロヴァンスの風景を描くことで、自然とのつながりを回復させようとしました。彼はこの時期に、少なくとも15点に及ぶ「オリーブの林」をモチーフとした連作を制作しています。

ゴッホにとってオリーブの木は特別な意味を持っていました。1889年5月の作品群は生命、神性、生命の循環を表現し、1889年11月の作品群はゲツセマネの園におけるイエス・キリストに対するゴッホ自身の感情を象徴する試みから生まれたとされています。 また、かつて伝道師を目指していたゴッホにとって、ギリシャ神話で「女神アテナが創り出した木」、キリスト教で「聖なる木」とされるオリーブは、描くべき「強いモチーフ」となっていったと考えられます。 彼は自然との触れ合いに安らぎと救いを見出しており、このオリーブのシリーズは、病気や感情の起伏が激しい時期でありながらも、彼の最高傑作の一つとされています。

「オリーブ園」の連作において、ゴッホは「日中の光と空の効果で、被写体としての可能性を無限に広げるオリーブの木」に注目し、「空のトーンによって変化する葉のコントラスト」を追求しました。

技法と素材

「オリーブ園」は油彩、カンヴァスで制作されています。ゴッホのこの時期の作品は、絵具の質感を顕著に感じさせる力強く荒々しい、やや長めの筆触と、絵具本来の色を多用した強烈な色彩が特徴です。

特に「オリーブ園」のシリーズでは、点描に似た技法、すなわち無数の小さな色彩の断片が用いられています。 これは、従来の厚塗りの絵具とは異なる、より洗練されたアプローチとも評されています。 空や樹木、地面までもが渦巻くような、あるいはねじれるような筆致で描かれ、画面全体に力強い生命感と躍動感が表現されています。 黒をほとんど使わず、色彩によって立体感を表現する技法も見て取れます。

意味

ゴッホはオリーブの木に、その古く枝分かれした形の表現力に、自然界に存在する霊的な力の表出を見出しました。 「オリーブ園」のシリーズは、風景の写生であると同時に、ゴッホの内面の波形をも表していると解釈されています。 ねじれる幹、揺れる草、渦を巻く空は、南仏の太陽の強さや、乾燥した厳しい暑さを彷彿とさせながらも、見る者の胸の呼吸をゆっくりと整えるような「救いの温度」を作り出していると評されます。 これは、サン=レミ時代のゴッホがオリーブの木々に見た「祈り」だったのかもしれません。

評価と影響

「オリーブ園」を含むサン=レミ時代に描かれた作品群は、ゴッホの画業の中でも充実期にあたると評価されており、この頃の絵は最も力強いとされています。 生前はほとんど評価されなかったゴッホの作品は、彼の死後急速に評価を高め、ポスト印象派を代表する画家の一人として重要視されるようになりました。 彼の感情の率直な表現、大胆な色使い、そして内面を反映したような迫真性の高い独自の表現は、野獣派(フォーヴィスム)やドイツ表現主義など、後世の画家に大きな影響を与えました。 「オリーブ園」の連作は、ゴッホの自然への深い共感、色彩と構図への探究心、そして精神の内奥から湧き出る衝動的なエネルギーを余すところなく伝えてくれる作品として、現在も多くの人々に感動を与え続けています。