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耕された畑(「畝」) Ploughed Fields ("The Furrows')

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

フィンセント・ファン・ゴッホ《耕された畑(「畝」)》 作品紹介

東京都美術館で開催中の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」にて展示されている、フィンセント・ファン・ゴッホの《耕された畑(「畝」)》は、画家のアルル時代、1888年9月に油彩、カンヴァスで制作された作品です。本作品は、ゴッホが抱いた自然、労働、そして人生への深い洞察を伝える一例として、現在ファン・ゴッホ美術館に所蔵されています。

制作の背景と意図

本作は、ゴッホがパリを離れて南仏アルルへと移り住んだ時期に描かれました。彼は都市生活の苦悩から逃れ、農村の労働者たちの中で自身の芸術と人生に価値を見出すことを求めていました。 1888年9月、ゴッホはアルル郊外の畑を描写し、耕されたばかりの広大な土地が持つ力強い生命力を捉えようとしました。 この頃、ゴッホは弟テオへの手紙の中で、本作品が他の作品に比べて「より穏やか」であり、買い手がつくだろうと期待を寄せていたことが分かっています。 また、彼はこの絵を、アルルで新たに手に入れた「黄色い家」に飾りたいと考えていたようです。

ゴッホは、聖書のたとえ話に惹かれ、麦畑を人間の生命の循環、すなわち成長と自然の力の両方を象徴するものとして捉えていました。彼は、絵画を「誠実な感情を表現するため」の天職と見なしており、肉体労働者への感謝や自然とのつながりを作品を通して表現しました。

技法と素材

油彩、カンヴァスで描かれた本作では、ゴッホ独特の厚塗りの技法が顕著です。 彼は絵具を厚く、あらゆる方向に塗ることで、耕されて反転した土の塊を描写しています。 特に、土の塊には黄、オレンジ、赤、緑、そして青や緑がかった灰色といった多様な色が用いられ、脱彩された(彩度が抑えられた)色彩の中に豊かな視覚的興味を生み出しています。 筆致もまた、その大きさや形状、方向が多様でありながら、混沌に陥ることなく画面全体にエネルギーを与えています。 画面の最前面では、畝が左から右下へと走り、奥行き感を演出しています。 地面はまだ大まかに掘り起こされた状態や、耕されていない状態が描かれ、ごつごつとした土の塊が確認できます。

作品が持つ意味

ゴッホにとって、畑は単なる風景ではなく、肉体労働者とその自然との深いつながりを象徴するものでした。彼は聖職者としての道を断たれ、絵画を通して「神と人間への愛」を表現するようになりました。 《耕された畑(「畝」)》は、小麦が育つ前の畑を描いており、自然の周期、すなわち生命の成長と再生のサイクルを示唆しています。 また、弟テオへの手紙の中で「木靴みたいなやわらかな色の土くれ・・忘れな草のような青い空とぷかぷか浮かぶ白い雲」と詩的に表現しているように、この作品は、穏やかで静かな風景の中に、フランスの田園地帯の美しさを捉えています。 「木靴」は、ゴッホにとって農民の世界を意味するものでもあり、大地の色として画面全体を支配しています。

評価と影響

ゴッホの生前に作品が売れることは稀でしたが、彼は本作の「穏やかさ」が買い手を惹きつけることを期待していました。 実際にこの絵が売られた記録はありませんが、ゴッホ自身はこの風景画に満足しており、弟テオも気に入るだろうと書き送っています。

ゴッホの作品は、彼の死後、弟テオの妻ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルやその息子フィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホの尽力により、その芸術的評価が確立されていきました。 「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」では、ゴッホの作品がどのように守られ、現在のように広く公開されるに至ったかという家族の物語にも焦点が当てられています。 本作もまた、ゴッホの画業を支え、後世に伝えられた多くの傑作の一つとして、彼の精神性と、自然や労働への深い敬意を現代に伝えています。