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アルルの老婦人 An Old Woman of Arles

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

フィンセント・ファン・ゴッホの作品、「アルルの老婦人」をご紹介します。

この作品は、1888年2月、フィンセント・ファン・ゴッホが南フランスのアルルに滞在していた時期に油彩、カンヴァスで制作されました。ゴッホは都会での生活に疲弊し、心機一転を図るため、また澄み切った大気と鮮やかな色彩に魅せられ、この地を理想郷「日本」のようだと感じていました。そこで彼は、日本の浮世絵版画に憧れるように、アルルの自然を鮮烈な色彩対比で表現することに没頭します。この時期は、ゴッホが独自の画風を確立した「アルル時代」として知られ、彼の画業の頂点とも言える時期にあたります。

モデルは、ゴッホが宿泊していたカレル・ホテルのオーナーの義母、エリザベート・ガルサンであると考えられています。彼女は当時68歳でした。 ゴッホは生涯を通じて、過酷な人生の痕跡を刻んだ人々や物を描くことを好んでおり、この作品もまた、そうした人物像の研究として位置づけられます。

絵画では、老婦人の頭に結ばれた黒い布が描かれていますが、これは当時の寡婦の一般的な喪服の一部でした。 背景にはベッドの一部が見えます。 この作品は、人生の苦難を背負った人々の姿に寄り添うゴッホの姿勢と、人間の尊厳を描き出す彼の深い洞察を象徴していると言えるでしょう。

技法としては油彩が用いられ、カンヴァスに描かれています。ゴッホは、太く荒々しく、やや長めの筆触で絵の具の質感を顕著に感じさせる描写を得意としました。 本作においても、粗い筆致によって顔の陰影が表現され、一見単色に見える背景も、多様な筆遣いによって豊かな表面を作り出しています。 厚く盛られた絵の具による描写は、対象の持つ感情や存在感を強調しています。

「アルルの老婦人」は、ゴッホの代表作「ひまわり」や「夜のカフェテラス」のような知名度を持つ作品とは異なるかもしれませんが、ゴッホの人間性への深い共感と、彼がアルルで確立した鮮烈な色彩と筆致を特徴づける重要な作品です。彼の作品全体は、感情の率直な表現と大胆な色使いで知られ、後にフォーヴィスムやドイツ表現主義など20世紀の芸術に大きな影響を与えました。 この「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」において、本作品が展示されることは、ファン・ゴッホ家が受け継いできたコレクションの中でのその価値と、画家の夢が現代に伝えられてきた経緯を物語っています。