フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh
フィンセント・ファン・ゴッホの「モンマルトル:風車と菜園」
本作品「モンマルトル:風車と菜園」は、フィンセント・ファン・ゴッホが1887年3月から4月にかけて、パリで制作した油彩画です。ゴッホが弟テオを頼ってパリに滞在していた時期の作品であり、当時のモンマルトルは、都市化が進む一方で、いまだ農村の面影を残す菜園や農場が広がる地域でした。ゴッホは、近代化された都市の様相と農民の生活が共存する、このモンマルトルの独特な風景を捉えようとしました。また、ゴッホ自身がこの主題がよく売れることを期待していたとも伝えられています。
パリでの滞在は、ゴッホの芸術に大きな転換期をもたらしました。彼はこの地で印象派や新印象派といった最先端のフランス絵画に触れ、それまでのオランダ時代の暗く重い色調から、明るく鮮やかな色彩へと作風を変化させていきました。本作品においても、こうした影響が顕著に見られます。使用されている素材は油彩とカンヴァスで、寸法は45.2 x 81.4 cmです。ゴッホは、野原の白や小屋の明るい青など、新鮮で純粋な色彩を取り入れています。特に、空、建物、人物、地面には青色が多用され、建物と地面の一部に用いられた橙色との補色関係が、画面に色彩のコントラストを生み出しています。
技法面では、日光を表現するために油絵具を薄く溶いて用いることで、半透明でマットな質感を創出しています。筆致には変化が見られ、前景は細い筆で描かれる一方、空は太い筆致で表現されています。また、新印象派の点描技法を応用しつつも、ゴッホは点で描く部分を地面や建物の一部に限定し、屋根や草地には長く伸びる筆致を用いています。珍しい横長のキャンバスが採用されており、これは広角レンズで捉えたような効果を生み出し、道や菜園が扇状に広がる構図が、鑑賞者の視線を地平線へと導きます。
この作品は、都市と農村が混在するモンマルトルの穏やかな情景を描きながらも、ゴッホがパリで経験した印象派や新印象派からの影響を吸収し、自身の芸術表現を模索していた過渡期を象徴しています。この時期の色彩や筆致の探求は、後のアルル時代以降の、より個性的で表現力豊かな作風へと繋がる重要なステップとなりました。本作品は現在ファン・ゴッホ美術館に所蔵されており、今回の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」においても展示されます。弟テオとその妻ヨーがフィンセントの作品を継承し、その評価を確立するために尽力したという展覧会のテーマは、フィンセントがパリで新しい芸術の可能性を追求できた背景にある家族の支えを想起させます。