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女性の顔 Head of a Woman

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

本記事では、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」に出展されている、フィンセント・ファン・ゴッホの油彩画「女性の顔」についてご紹介します。

作品名:女性の顔 (Head of a Woman) アーティスト名:フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 制作年:1885年3-5月 場所:ニューネン Nuenen 素材:油彩、カンヴァス Oil on canvas


作品の背景・経緯・意図

フィンセント・ファン・ゴッホは、1883年から1885年にかけてオランダ南部のニューネンで活動していました。この期間はゴッホにとって非常に多作な時期であり、2年間で195点以上の油彩画と多数の素描を制作しています。彼は将来的に人物画家となることを強く志しており、そのための訓練として、地元の農民たちをモデルに多数の頭部習作を描きました。

ゴッホは、これらの習作を個々の肖像画としてではなく、「類型」の描写として捉えていました。当時の貧しい村であったニューネンの農民たちの厳しい生活を作品に映し出すことが彼の意図であり、「女性の顔」もまた、そうした農民たちの実像を捉えようとする一連の作品の一つです。特に彼は、白い頭巾をかぶった女性たちの顔と、その頭巾が作る影とのコントラストに魅力を感じていました。この作品は、後にゴッホの代表作の一つとなる「じゃがいもを食べる人々」を制作する上で不可欠な、人物描写の研鑽の一環として位置づけられています。

技法や素材

本作品は油彩、カンヴァスで制作されています。ニューネン時代のゴッホの作品は、ハーグ派やミレー、クールベといった写実主義の画家たちの影響を受け、全体的に暗く沈んだ色調が特徴です。この時期の彼は、色使いや筆致を模索しており、特に農民の顔や手の描写に彫刻的な表現を追求しました。

「女性の顔」では、モデルの肌の質感や頭巾のひだを際立たせるために、太く意図的な筆致が用いられています。当時の他の頭部習作と比較すると、背景に明るい色を用いるなど、比較的色彩豊かな作品であると評価されています。これにより、女性の顔の輪郭がより鮮明に浮かび上がっています。ゴッホはニューネン時代に、素朴な農村の芸術を表現するに適した「粗野な技法」を追求していました。

作品の意味

この「女性の顔」は、当時の農民たちの過酷な生活を象徴的に表現しています。ゴッホは、彼らの顔に刻まれた人生の厳しさの中に、人間としての尊厳や力強さを見出し、それを称揚しようとしました。モデルとなった女性は、ゴッホの代表作「じゃがいもを食べる人々」にも登場するゴルディナ・デ・フロートであることが知られています。彼女の白い頭巾は、当時の農村における女性の身分や役割を示唆しているとも考えられます。この作品は、ゴッホが人物画家としての基礎を築く上で、極めて重要な意味を持つ習作シリーズの一部です。

評価と影響

「女性の顔」を含むニューネン時代の作品は、ゴッホが後に確立するポスト印象派の画風へと繋がる、独自の筆致や感情表現の萌芽が見られる点において重要な評価を受けています。彼の感情豊かな表現技法は、後世の芸術家にも大きな影響を与えたとされています。

現在開催中の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ゴッホの弟テオとその妻ヨーが、画家の死後、いかにその膨大な作品群を保存し、世に広めていったかに焦点を当てています。本展覧会で「女性の顔」が展示されることは、ゴッホの初期の探求と、彼の芸術的評価が家族によって守られ、今日まで伝えられてきた軌跡を物語るものです。この作品は、ゴッホが画家としての道を歩み始めた初期の重要な成果として、現在も高く評価されています。