レオン=オーギュスタン・レルミット Léon-Augustin Lhermitte
本作品は、フランスの写実主義の画家、版画家であるレオン=オーギュスタン・レルミット(1844-1925年)によって、1885年11月に制作されました。当時の挿絵入り新聞『ル・モンド・イリュストレ』紙に掲載された「農村の12ヵ月」シリーズのうち、「10月」にあたる「ジャガイモの収穫」を描いた木口木版・活版印刷による紙作品です。
レオン=オーギュスタン・レルミットは、フランスのエーヌ県のモン=サン=ペールで生まれ育ちました。幼い頃から絵画の才能を発揮し、農村の風景や農民の日常生活を主要な題材とする画家として知られています。彼はジャン=フランソワ・ミレーの影響を受け、農民の質素で勤勉な生活を客観的に捉え、厳しい労働の中にも見出される人間性や美しさを表現する「社会的リアリズム」の画家として高く評価されました。
本作品が掲載された『ル・モンド・イリュストレ』紙のような当時の大衆向け刊行物では、季節ごとの農作業の様子が挿絵として頻繁に紹介されていました。レルミットは、「農村の12ヵ月」というシリーズを通して、フランス農村の年間を通じた暮らしと労働の風景を詳細に描き出すことを意図していました。
この作品は、木口木版と活版印刷という技法を用いて紙に制作されています。木口木版は、木材の年輪に対して垂直な断面(木口)に彫刻を施す版画技法であり、緻密な線や豊かな諧調表現が可能です。これにより、細部まで精緻に描かれたジャガイモの収穫作業の情景が再現されています。活版印刷は、この木口木版と文字を組み合わせて印刷するために用いられ、当時の新聞や雑誌の挿絵として広く普及していました。
「ジャガイモの収穫」は、農村における10月の主要な労働であるジャガイモ掘りの様子を描いています。この作品は、レオン=オーギュスタン・レルミットが一貫して追求した農民の生活への深い洞察と共感を反映しています。農民たちの地道な労働を通じて、大地の恵みと人間の営みの尊さを表現しており、過酷な労働の中にも見出される力強さや連帯感が伝わってきます。彼の作品に見られる社会的リアリズムは、当時の農民の現実を美化することなく、しかし尊厳をもって描き出すことに成功しています。
レオン=オーギュスタン・レルミットは、その穏やかで理想化された農村風景の描写により、国際的な名声を確立しました。彼は1889年のパリ万国博覧会の絵画部門で大賞を受賞し、1905年には美術アカデミーの正会員に選出されるなど、生前から高い評価を受けていました。
特に、フィンセント・ファン・ゴッホはレルミットの作品を高く評価しており、彼の手紙の中にもレルミットへの敬意が繰り返し記されています。ゴッホが農民の生活や労働をテーマにした作品を数多く描いた背景には、レルミットのような写実主義の画家の影響が大きく作用していたと考えられます。この作品が「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」において展示されることは、ゴッホの芸術形成におけるレルミットの重要性を示すものであり、両者の芸術的繋がりを浮き彫りにする役割を担っています。