エルネスト・クォスト Ernest Quost
エルネスト・クォスト作「タチアオイの咲く庭」をご紹介します。
本作品は、1886年から1890年にかけて制作された、フランスの画家エルネスト・クォストによる油彩画です。クォストはとりわけ花を描く画家として知られ、タチアオイを得意としました。本作では、陽光降り注ぐ豊かな庭園の手前に、ピンクと白のタチアオイが誇らしげに咲き誇る様子が描かれています。
この作品は、フィンセント・ファン・ゴッホとの特別なつながりを持つことで知られています。フィンセントはクォストのタチアオイの絵画を高く評価しており、その奔放な筆致と新鮮な色彩は、1886年の夏に彼がパリで描いた自身の花瓶の静物画に影響を与えたとされています。フィンセント自身も、「クォストにはタチアオイがあるが、私にはひまわりがある」と語ったほど、クォストの作品に強い関心と敬意を抱いていました。
制作技法としては、油彩が板に施されており、クォストの印象派的な様式が特徴です。セーヴル磁器製作所での訓練で培われた花の装飾技術が背景にあり、繊細な筆致と柔らかな色彩によって、夏の日の穏やかな美しさを表現しています。光と色彩の巧みな使用、そして表現豊かな筆致が、作品にダイナミックで詩的な質をもたらしています。
本作が持つ最も深い意味合いは、フィンセント・ファン・ゴッホとの友情と、芸術に対する共鳴にあります。フィンセントの死後、クォストはフィンセントが深く愛したであろう絵を弟テオに贈りたいと望み、この「タチアオイの咲く庭」を選びました。作品の裏面には「テオ・ファン・ゴッホへ。友フィンセントがこよなく愛したこの絵を。」という献辞が記されており、フィンセントの美術的鑑賞眼と、死後も続く絆を物語っています。
この絵画は現在、アムステルダムのファン・ゴッホ美術館が所蔵しており、フィンセント・ファン・ゴッホ財団によって1996年に個人コレクションから収蔵されました。現在の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」展では、フィンセント・ファン・ゴッホの芸術的軌跡と、彼の作品が弟テオ、そしてテオの妻ヨー、さらにその子孫によっていかにして保存され、世界に伝えられたかという家族の物語の中で、重要な位置を占めています。フィンセントが実際に評価し、愛した作品として、彼の芸術理解を深める上で貴重な役割を担っています。