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風雪三顧図襖

円山応挙

円山応挙 《風雪三顧図襖》:革新と写実が織りなす東洋の故事

三井記念美術館で開催される「円山応挙―革新者から巨匠へ」展において、白鶴美術館所蔵の《風雪三顧図襖》(8面、江戸時代・18世紀)が紹介されます。この作品は、円山応挙が確立した写実的な画風と、東洋の古典的な故事が見事に融合した、応挙芸術の真髄を示す障壁画の一つです。

制作背景と意図

《風雪三顧図襖》は、中国の歴史物語「三顧の礼」を題材としています。これは、劉備が諸葛亮孔明を軍師として招くため、風雪の中を三度訪ねたという故事であり、主君が賢臣を厚遇する姿勢を示すものとして、古くから東アジアで尊ばれてきました。円山応挙がこの題材を選んだ背景には、当時の知識人層や武家社会における儒教的価値観の重視があったと考えられます。応挙は、単に故事を描くだけでなく、その物語に込められた精神性や情景のリアリズムを追求し、見る者に深い感動と共感を呼び起こすことを意図したとされます。

技法と素材

この襖絵は、紙本に墨を主体とした淡彩で描かれていると推測されます。円山応挙の画風は「写生」を重んじ、対象をありのままに捉えることに特徴があります。西洋画の遠近法や、光と影の表現を取り入れることで、従来の日本画にはなかった革新的な視覚効果を生み出しました。 《風雪三顧図襖》においても、応挙は墨の濃淡やかすれ、筆の勢いを巧みに操り、風雪の厳しい情景や登場人物の心象風景を表現しています。特に、雪の描写では、紙の白地を効果的に生かすことで、積もる雪の質感や、舞い散る雪の冷たさを写実的に表しています。また、人物描写においても、写生に基づいた精緻な筆致で、劉備の誠実さや孔明の賢明さが伝わる表情や姿を描き出していると考えられます。

作品が持つ意味

《風雪三顧図襖》は、「三顧の礼」の故事を通じて、主君と賢臣の間に築かれるべき信頼関係や、困難な状況においても志を貫く精神の重要性を示唆しています。風雪という厳しい自然環境の中で描かれることで、劉備の孔明への深い敬意と、それを迎え入れる孔明の静かな覚悟がより一層際立ちます。応挙は、写実的な表現を駆使することで、単なる物語の再現に留まらず、鑑賞者がその情景の中に身を置き、登場人物の心情に深く共感できるような空間を創造しました。この作品は、応挙が古典的な題材に新たな生命を吹き込み、普遍的な人間ドラマを描き出した好例と言えるでしょう。

評価と影響

円山応挙は、江戸時代中期から後期にかけて京都画壇を牽引し、「円山派」の祖として多くの弟子を育てました。彼の写実を重視した画風は、当時の鑑賞者にとって「それまで見たこともないヴァーチャル・リアリティーのように、眼前に迫ってきた」と評され、日本画に新風をもたらしました。 《風雪三顧図襖》も、その写実性と奥行きのある空間表現によって、当時の人々を驚かせ、その後の日本画の表現に大きな影響を与えたと考えられます。応挙の作品は、写生に基づく対象描写と装飾的な画面構成を融合させることで、平明で清新な画風を確立し、近代の京都画壇にまでその伝統が受け継がれています。この作品を通して、円山応挙がどのようにして革新者から巨匠へと歩みを進めたのか、その一端を垣間見ることができるでしょう。