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鼬図

円山応挙

円山応挙《鼬図》に見る革新的な写実表現

公益財団法人本間美術館が所蔵する円山応挙の《鼬図(いたちず)》は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した絵師、円山応挙の画業における写実表現の到達点を示す作品の一つです。本作品は、明和7年(1770年)から安永元年(1772年)頃に制作されたとされ、紙本淡彩、縦21.8センチメートル、横59.1センチメートルの寸法で、山形県指定文化財に指定されています。

制作背景と意図

円山応挙(1733-1795)は、丹波国穴太村(現在の京都府亀岡市)の農家に生まれ、京で狩野派の石田幽汀に学びながら、さらに西洋画や中国画の写実技法を研究しました。従来の理想化された絵画表現が主流であった時代に、応挙は「写生」を最も重視し、常に写生帖を携帯してスケッチに励んだと伝えられています。この《鼬図》も、その場で観察したイタチの姿を基に、後に清書されたものと見られています。応挙は、身近な動植物の生命感をありのままに捉えることで、鑑賞者に新たな視覚体験をもたらすことを意図していました。

技法と素材

この作品は紙本淡彩という技法で描かれています。特筆すべきは、輪郭線をほとんど用いない「没骨(もっこつ)」に近い表現で、細い筆による「毛描き」のみによってイタチの柔らかい体毛やしなやかな身体が巧みに表現されている点です。画面には、大きく描かれたイタチの全身側面図に加え、その下の余白に頭部を正面、側面、下方など、様々な角度から捉えた五つの図が配置されています。特に牙の生え方に至るまで、細部にわたる丹念な観察と描写が見て取れます。

作品が持つ意味

《鼬図》は、応挙が確立した写生画の真髄を示す作品と言えます。イタチが威嚇するような表情も捉えられており、動物への温かいまなざしと、その生命感や動きを一瞬のうちに捉える応挙の卓越した観察眼が凝縮されています。単なる動物の描写にとどまらず、対象の本質に迫ろうとする応挙の探求心が表れています。

評価と影響

円山応挙は、18世紀の京都画壇において「革新者」として位置づけられています。その写実に基づいた画風は瞬く間に京都画壇を席巻し、多くの弟子を魅了して「円山派」の祖となりました。応挙の作品は、当時の人々に「視覚を再現してくれる絵」「バーチャル・リアリティーのように眼前に迫る」と評されるほど、斬新なものでした。この《鼬図》も、その革新的な描写力によって、応挙が巨匠へと至る軌跡を示す重要な作品の一つとして高く評価されています。現在も本間美術館の主要な収蔵品として、応挙の写実精神と動物画の魅力を現代に伝えています。