円山応挙
2025年9月26日から11月24日まで三井記念美術館で開催される「円山応挙―革新者から巨匠へ」展では、江戸時代中・後期の絵師、円山応挙(まるやま おうきょ)が描いた「白鳥図」が展示されます。本作品は天明7年(1787年)に制作され、現在は本間美術館に所蔵されています。
円山応挙は、18世紀の京都画壇において「写生」を重視した革新的な画風を確立したことで知られています。当時の鑑賞者にとって、応挙の描く絵は、まるで目の前にあるかのような「ヴァーチャル・リアリティ」として受け止められました。応挙は常に写生帖を懐に忍ばせ、スケッチに余念がなかったと伝えられています。こうした徹底した写生に基づき、彼は対象の生命感や質感を追求し、絵画に新たな表現をもたらしました。
「白鳥図」が制作された天明7年(1787年)は、応挙が数多くの傑作を生み出した円熟期にあたります。同年には、香川・金刀比羅宮に奉納された重要文化財「遊虎図襖」が描かれており、虎の毛並みのふわふわとした質感が写実的に表現されていることで注目されます。また、伊藤若冲との合作「梅鯉図屏風」もこの時期の制作であり、応挙の鯉の描写に高い画技が注がれています。こうした時期に描かれた「白鳥図」も、白鳥という特定の動物を題材に、応挙の真骨頂である写生に基づいた生き生きとした描写が試みられたと考えられます。
応挙の作品には、輪郭線を用いずに、墨の濃淡や絵具の重ね塗りで対象の量感や立体感を表現する「付立て(つけたて)」や「没骨(もっこつ)」といった技法が多用されています。また、精密な筆致で鳥の羽毛を描き出す「毛描き(けがき)」も彼の写生画に特徴的な技法です。応挙は緻密な鳥の写生帖も残しており、その観察眼と描写力は高い評価を受けています。
「白鳥図」においても、一本の掛け軸という形式の中で、白鳥のしなやかな首の動き、ふくよかな胴体、そして羽毛の繊細な質感や光沢が、これらの写実的な技法によって表現されていると推測されます。使用されている素材は紙本に彩色が施されたものと考えられます。
円山応挙の鳥を描いた作品は、単なる写実を超え、生命の息吹を伝えるものとして評価されてきました。彼の作品が持つ「ヴァーチャル・リアリティ」のような迫真性は、当時の人々に強い印象を与え、後の京都画壇に大きな影響を与え、円山四条派の源流となりました。
「白鳥図」は、応挙が自然界の美しさ、特に鳥の優雅な姿をいかに深く観察し、それを絵画として昇華させようとしたかを示す一例と言えるでしょう。優美な白鳥の姿は、見る者に静謐さや生命の尊さを感じさせると考えられます。本作品を通じて、応挙が追求した写実と、その先にあった絵画表現の革新の一端を垣間見ることができます。