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鳥類真写図巻

渡辺始興

渡辺始興筆「鳥類真写図巻」

「円山応挙―革新者から巨匠へ」展で紹介される渡辺始興の「鳥類真写図巻」は、江戸時代中期に制作された写生画の傑作であり、後の京都画壇に多大な影響を与えた重要な作品です。

制作背景と意図 作者である渡辺始興(1683-1755年)は、京都に生まれた江戸時代中期の絵師です。初め狩野派を学び、後に尾形光琳に師事したとされ、大和絵の技法も研究しました。彼は五摂家の一つである近衛家に仕え、学問を好み博物学にも関心を寄せた近衛家熙の薫陶を受けて、写生画に先鞭をつけました。この「鳥類真写図巻」は、始興が実証的かつ客観的な観察に基づき、鳥類を細密に写し取ろうとした意図のもと制作されました。図巻に記された、鳥の換羽時期や特徴に関する詳細な書き込みからは、作者の鋭い観察眼と対象を深く探求する姿勢がうかがえます。想像上の鳥は一切描かれず、当時の日本で観察できた実際の鳥類のみが描かれており、その写実への徹底したこだわりが示されています。

技法と素材 この作品は一巻の紙本著色(しほんちゃくしょく)で、全長は約17メートルから17.5メートルに及びます。この長大な巻物には、63種類もの鳥が描かれています。始興は、羽の数や長さといった客観的な情報まで丹念に記録しており、その描写は極めて精緻です。光琳の写生に比べると、構図的な斬新さよりも、精確さが際立っています。精緻な描写は一枚一枚の鳥が独立した画面として構成されているかのような印象を与え、観察対象への徹底した集中が見て取れます。

作品が持つ意味 「鳥類真写図巻」という作品名は、「鳥類の真実の姿を写し取った巻物」を意味し、当時の絵画における写生表現の新たな境地を開いたことを示しています。写生は、それまで観念的であった花鳥画に、現実世界に生きる生命の息吹と具体的な姿をもたらしました。この図巻は、単なる鳥の図鑑としてではなく、絵師の観察眼と筆技が結実した芸術作品として評価されています。

評価と影響 渡辺始興の写生を重視する作画態度は、後の京都画壇に多大な影響を与えました。特に、円山応挙(まるやまおうきょ)は、この「鳥類真写図巻」を模写したと伝えられています。応挙の写生図と始興の作品は酷似しており、応挙が写生の才能を開花させる上で、始興の作品が大きな力となったと考えられています。始興は、写実的な表現を通して、18世紀中葉以降の京都画壇の興隆を先導する重要な役割を果たしました。彼の作品は、琳派の装飾性に写実性を加えることで、生き生きとした新しさを表現したと評価されています。

この「鳥類真写図巻」は、三井記念美術館に所蔵されており、過去にも同館の企画展「国宝 雪松図と花鳥」や「美術の遊びとこころⅨ 花と鳥」などで展示され、その写実性と後世への影響力が紹介されています。