円山応挙
静岡県立美術館が所蔵する円山応挙の傑作「竹雀図屏風」は、現在開催中の「円山応挙―革新者から巨匠へ」展において、その芸術的深淵を鑑賞者に示しています。本展は、江戸時代中期から後期にかけて京都画壇を席巻し、多くの弟子を育て円山四条派の祖となった円山応挙(1733-1795年)が、「革新者」から「巨匠」へと昇華していく過程を、重要な作品群を通じて検証するものです。応挙は、日本美術史において重要な地位を占める画家として、その真価が改めて問われています。
「竹雀図屏風」は、六曲一双、各165.5×373.0cmの紙本墨画による屏風で、天明5年(1785年)に制作されました。 この時期は、応挙の画業において「隆盛期」(1774年〜1786年)に位置づけられ、彼独自の様式による作品が数多く生み出された時代です。
円山応挙は、狩野派の画技を学びつつも、西洋画の遠近法を眼鏡絵制作で習得し、さらに中国古画や清朝画の写実技法を取り入れることで、写生を基本とする独自の画風を確立しました。 彼の写生は単なる模写に留まらず、鑑賞者に本物であるかのような感覚を抱かせる「しかけ」を伴うものでした。
「竹雀図屏風」は、日本の伝統的な吉祥画題である竹と雀を主題としています。竹は古くから強さ、生命力、長寿の象徴とされ、雀は家族の繁栄や福をもたらす鳥として親しまれてきました。応挙はこれらの題材を通じて、写実的な描写と装飾的な画面構成を融合させ、平明で清新な自然の情景を描き出すことを意図したと考えられます。
本作品は、紙に墨で描かれた水墨画です。 応挙は、一筆の中で墨の濃淡を巧みに変化させる得意の「付け立て技法」を駆使しました。これにより、竹の葉にはみずみずしい質感と立体感が、竹幹にはすらりとした表現が与えられています。
また、遠近感の表現にも独自の工夫が見られます。手前の竹を濃い墨で、遠くの竹を淡い墨で描くことで、空間に奥行きと広がりを生み出しています。 さらに、竹の根元の位置をずらしたり、三羽の雀の配置によって鑑賞者の視線を誘導したりすることで、画面全体に動きと深みがもたらされています。 このような写実に基づいた表現と、それを支える高度な墨の技法が、作品の魅力を一層引き立てています。
「竹雀図屏風」は、風にそよぐ竹林の中で、雀たちが生き生きと飛び交う穏やかな自然の営みを描いています。これは、自然への深い洞察と、それらを生命感豊かに捉えようとする応挙の姿勢を象徴するものです。竹と雀という普遍的なモチーフに、応挙ならではの写実性と構成力を加えることで、時代を超えて人々の心を和ませるような、静謐で吉祥に満ちた世界が創出されています。
「竹雀図屏風」は、その写実性と装飾性の融合により、応挙の画業における重要な作品の一つとして評価されています。特に、墨の濃淡によって空間に奥行きを生み出す技法は、長谷川等伯の「松林図屏風」と比較されることもあり、鑑賞者に深い感動を与えます。
円山応挙の革新的な写生画風は、当時の京都画壇に絶大な影響を与え、多くの門人を育てました。彼の確立した円山派は、写生を重視するその系統を近現代の京都画壇にまで繋げており、日本絵画史におけるその功績は計り知れません。 「竹雀図屏風」もまた、応挙の写生における探求と、その成果を示す傑作として、後世の画家たちに多大な影響を与えました。