オーディオガイド トップに戻る
0:00
0:00

三井高彌像

円山応挙

「円山応挙―革新者から巨匠へ」展で展示される作品の中から、今回は円山応挙が描いた「三井高彌像」をご紹介します。

この作品は、江戸時代・18世紀に制作された一幅の絹本着色の肖像画であり、三井文庫が所蔵しています。描かれている人物は、三井新町家三代目の当主、三井高彌(たかひさ、1719~1778年)です。この肖像画は、高彌が没した後、その五代目にあたる三井高雅の依頼によって制作されたと考えられています。当時の肖像画は、故人を敬い、偲ぶとともに、尊崇や親愛の念を示すという役割を担っていました。現代において作品は主に美術品として鑑賞されますが、かつては像主の縁故者が個別の視線を注ぐ対象でもあったとされています。

作品に用いられている技法は、円山応挙が確立した写生に基づいた写実的な描写が特徴です。繊細な面貌表現と的確な人体の把握から、無款ながらも応挙の筆による優品と評価されています。 素材は絹に彩色が施されており、縦93.3センチメートル、横34.7センチメートルの寸法です。 高彌は裃(かみしも)を着て端座する姿で描かれており、黒の着物の後袖には「丸に三」、藍色の肩衣の胸には「四ツ目結」という三井家の紋所が丁寧に描き込まれています。さらに、膝元に表現された衣服の質感や、その下の厚み、開き具合なども見事に描写されており、応挙の細部への観察眼が窺えます。

円山応挙は、徹底した写生をもとに、伝統的な装飾画の技法と、若き日に眼鏡絵の制作を通じて体得した西洋の遠近法を融合させることで、革新的な画風を確立しました。 その絵は、当時の鑑賞者にとって、まるで眼前に実物が存在するかのような臨場感、すなわち「ヴァーチャル・リアリティー」を感じさせるものであり、これまでの絵画表現とは一線を画すものでした。

応挙のこの革新的な画風は瞬く間に京都画壇を席巻し、多くの弟子たちが集まって円山四条派を形成しました。 その影響は現代の日本画壇にまで受け継がれています。 「三井高彌像」は、こうした応挙の写実表現が肖像画においても遺憾なく発揮された一例であり、近世の商人階級の肖像画の様相を明らかにする上で貴重な資料としても位置づけられています。 本展では、応挙が「革新者」から「巨匠」へと歩みを進めていく軌跡を、この重要な作品を通してご覧いただけます。