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蜃気楼図

円山応挙

円山応挙「蜃気楼図」:虚構を写し取った革新者の眼差し

三井記念美術館で開催される「円山応挙―革新者から巨匠へ」展にて紹介される円山応挙の「蜃気楼図」は、江戸時代・18世紀に制作された一幅の掛軸です。応挙がその画業において追求した「写生」の精神と、幻想的な主題が見事に融合した作品として注目されます。

制作背景と意図

「蜃気楼図」という画題は、中国に起源を持つとされ、巨大なハマグリ(蜃)が気を吐き、その中に楼閣が立ち現れる様子を描くものです。日本では古くから「蛤蜊観音図」や「龍宮図」といった類似の主題が見られ、幻影や異界の情景を表すものとして描かれてきました。応挙の「蜃気楼図」も、こうした伝統的なテーマを受け継ぎつつ、彼独自の写実的な視点を通して再構築されたものと考えられます。

円山応挙は、18世紀の京都画壇において「写生」を重んじ、革新的な画風を確立した絵師です。彼は、西洋の遠近法を取り入れた「眼鏡絵」の制作に携わった経験を通じて、奥行きや立体感を表現する技術を習得しました。 この経験は、彼の絵画に「ヴァーチャル・リアリティー」とも称されるような、鑑賞者がまるでその場にいるかのような臨場感をもたらしました。 「蜃気楼図」においても、現実には存在しない幻想的な光景を、あたかも実際に見てきたかのように写し取る応挙の真骨頂が発揮されていると推測されます。

技法と素材

この「蜃気楼図」は一幅の掛軸として制作されました。応挙は、綿密な写生に基づきながらも、伝統的な日本画の装飾性と西洋的な写実表現を融合させる技法を特徴としています。 具体的な素材や絵具に関する詳細な情報は確認できませんが、彼の他の作品に見られるように、墨の濃淡やにじみ、ぼかしといった水墨画の技法を駆使して、幻想的な空気感や奥行きが表現されている可能性が高いです。また、繊細な筆致で対象の質感を表現する技術も、この作品に生かされていることでしょう。

作品の持つ意味

応挙の「蜃気楼図」は、単なる奇妙な現象の描写に留まらず、写生によって虚構の世界にリアリティを与えるという、彼の芸術的挑戦を示すものと言えます。彼は現実の森羅万象を観察し、その本質を描き出すことで知られましたが、同時に幽霊図のような非現実的な題材をも、まるで実在するかのように描き出しました。 「蜃気楼図」もまた、移ろいやすく実体のない幻影を、確かな描写力で可視化することで、観る者に深い印象を与えようとする意図があったと考えられます。

評価と影響

円山応挙は、その写実的な画風によって瞬く間に京都画壇を席巻し、多くの弟子を育てて円山四条派の祖となりました。 彼の絵は、当時の人々にとってこれまでにない「視覚を再現してくれる絵」として受け止められ、近代日本画の源流の一つとして多大な影響を与えました。 「蜃気楼図」も、応挙の多岐にわたる画業の一端を示す作品として、彼の革新性と描写力の高さを現代に伝えています。この作品は、彼の「革新者」から「巨匠」への道のりを示す重要な作品群の一つとして、今回の展覧会でその意義が再認識されることでしょう。