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眼鏡絵 中国風景

円山応挙

円山応挙「眼鏡絵 中国風景」(姑蘇万年橋図、湖上遊船図)

現在開催中の「円山応挙―革新者から巨匠へ」展で展示されている円山応挙の「眼鏡絵 中国風景」は、江戸時代に制作された三枚の作品です。具体的には、「姑蘇万年橋図」と「湖上遊船図」が含まれ、株式会社千總ホールディングスが所蔵しています。これらの作品は、応挙の初期の画業における重要な転換点を示すものとして位置づけられます。

制作背景・経緯・意図

「眼鏡絵」とは、江戸時代に流行した、レンズと鏡を組み合わせた「覗き眼鏡」を通して鑑賞する絵画の一種です。この装置で絵を見ると、左右が反転した原画が正常な向きに見えるとともに、深い奥行きと立体感が強調されるのが特徴でした。

円山応挙は20代の頃、京都の玩具商「尾張屋中島勘兵衛」に奉公し、人形の彩色などを手掛けていました。この時期に、オランダから輸入された「覗きからくり箱」と、それを通して見る西洋の遠近法を用いた眼鏡絵に触れたことが、応挙の画業に大きな影響を与えました。 応挙はこれをきっかけに眼鏡絵の制作に取り組み、当初は京都の風景を描いていましたが、やがて異国情緒あふれる中国の風景も手掛けるようになります。 「姑蘇万年橋図」は、1740年に中国・蘇州に完成した万年橋を描いたもので、当時の蘇州版画で新しい名所として盛んに描かれた景観でした。 応挙は西洋から伝わった透視図法を学び、それを絵画に応用することで、鑑賞者にこれまでにない視覚体験を提供しようと意図しました。 これは、伝統的な日本画にはなかった遠近表現を追求する、応挙の革新的な姿勢を示すものでした。

技法・素材

本作品は「紙本著色」であり、紙に色彩を用いて描かれています。 眼鏡絵として機能させるため、原画は左右が反転して描かれています。 制作には極めて細い筆が用いられ、銅版画に匹敵するほど緻密かつ精緻な描写が施されています。 これにより、覗き眼鏡で見た際に、奥行きが強調された立体感のある風景がより鮮明に立ち現れる効果を生み出しました。西洋の遠近法が的確に用いられている点も、技法上の大きな特徴です。

意味・評価・影響

円山応挙にとって眼鏡絵の制作は、写生画を確立する上で極めて重要な意味を持ちました。眼鏡絵を通して遠近法を習得し、対象を客観的に描写する「写生」の技術を磨いたことが、その後の応挙独自の画風、すなわち円山派の基礎を築くきっかけとなったと評価されています。 応挙は、西洋の遠近法と中国の写生画の技術を研究することで、日本の伝統的な装飾画様式と写実性を融合した新しい画風を確立しました。

応挙の眼鏡絵は当時非常に人気があり、その写実的な表現は、当時の人々にとって「眼前に迫ってくる」ような、それまでにない視覚体験として受け止められました。 「京洛・中国風景図」などの一連の眼鏡絵は、18世紀の京都の景観資料としての価値だけでなく、中国から舶来した蘇州版画が日本に与えた影響を考察する上でも重要な作品とされています。

本展「円山応挙―革新者から巨匠へ」では、応挙が初期に手掛けたこれらの眼鏡絵が、彼を「革新者」へと導き、「巨匠」としての地位を確立する上でいかに不可欠な作品であったかを示しています。 その精緻な描写と遠近表現は、近代日本画の幕開けを象徴するものとして、現在でも高く評価されています。