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能面 泥小飛出

金春家伝来

作品詳細:能面 泥小飛出 アーティスト名:金春家伝来 展示会タイトル:動物の仮面

この作品「能面 泥小飛出」について、その背景、経緯、意図、技法、素材、意味、評価、影響などについて詳細に説明します。

  1. 作品の背景・経緯・意図

「能面 泥小飛出」(でいことびで)は、室町時代、15世紀から16世紀頃に制作されたと考えられており、金春家(こんぱるけ)に代々伝わった能面です。金春家は、能楽の四座一流の一つである金春流宗家であり、多くの貴重な能面を伝承してきました。この面は、東京国立博物館に所蔵されており、重要文化財に指定されています。

「泥小飛出」は、特定の能の演目において、稲荷明神(いなりみょうじん)の化身である狐神(きつねがみ)や、地上を走り巡る神、あるいは敏捷な神通力を見せる神体や鬼畜などを表現するために用いられました。特に能「小鍛冶(こかじ)」では、稲荷明神の使いとして、刀匠・三条宗近(さんじょうむねちか)の相槌(あいづち)を打ちに現れる霊狐(れいこ)の役柄に用いられます。喜多流では、白い鬘(かつら)を被って演じる際に専用の面として使われることもあります。

「泥小飛出」の「泥」は「金」を意味しており、面全体に金泥が施されているのが特徴です。これにより、神性や霊性を際立たせる意図があったと考えられます。また、口を大きく開け、目を飛び出すように見開いた相貌は、俊敏さや強い生命力を表現しています。

  1. 技法や素材

「能面 泥小飛出」は、木彫りを基本とする伝統的な能面の制作技法で作られています。

  • 素材: 主に木材が用いられます。能面の制作では、ヒノキなどが使われることが多いです。
  • 彫刻: まず、木材から面全体の輪郭と形が彫り出されます。裏側からノコギリやノミを使って不要な部分を削り出し、丸ノミで大まかな形を彫り込みます。その後、細部の彫刻に移り、目や口、鼻、耳などの特徴的な部分が丁寧に作り込まれていきます。
  • 彩色: 「泥小飛出」の最も顕著な特徴は、その「泥」の名の通り、全体に金泥が施されている点です。制作過程では、まず木地を研磨し、下塗りを行います。下塗りの膠(にかわ)に胡粉(ごふん)や弁柄(べんがら)を混ぜて塗布した後、本金泥を膠で溶いて刷毛で何度も塗り重ねます。最後に、ヤシャブシの古色液を塗布し、スチールタワシなどで研ぎ出すことで、古格のある風合いと深みのある光沢が表現されます。
  • 装飾: 目には金環が付けられることもあります。また、面裏には、制作に携わった人物や伝来を示す銘文が記されることがあり、この「泥小飛出」の面裏には、江戸時代前期の金春大夫である元信(もとのぶ)の名が記されています。
  1. 作品の意味

「能面 泥小飛出」は、能楽において、神聖でありながらも人間的な感情や躍動感を表現する重要な意味を持っています。

  • 神性・霊性: 稲荷明神の化身である霊狐や、地上を駆け巡る神の役に用いられることから、神聖な存在や霊的な力を象徴します。全身に施された金泥は、その神々しさや威厳を視覚的に強調しています。
  • 俊敏性・躍動感: 口を大きく開き、目を見開いた表情は、演じる役柄の持つ俊敏さ、生命力、そして強い意志を表現します。特に「小鍛冶」の霊狐が、神妙な雰囲気の中で力強く相槌を打つ場面など、物語の重要な転換点やクライマックスでその存在感を発揮します。
  • 動物的表現: 「小飛出」系統の面は、狐などの畜類、あるいは動物の精霊を演じる際に用いられます。今回の展示会タイトル「動物の仮面」は、この面の持つ動物的、あるいは精霊的な側面に着目したものであると考えられます。耳の上部が尖り、えらが張る点に特徴があり、「猿飛出」に似ているとも言われますが、金泥塗りである点が「小飛出」の変わり型とされています。
  1. 評価や影響

「能面 泥小飛出」は、その古格(こかく)ある作行と、堂々たる面相が評価されています。制作から数百年を経た現在においても、星霜(せいそう)を経ることで一層神性が増したと評されるほど、能面としての完成度と芸術性が高く評価されています。

  • 文化的価値: 室町時代に制作され、金春家に代々伝わったという歴史的背景は、能楽史における貴重な資料としての価値を高めています。重要文化財に指定されていることからも、その文化財としての価値は国からも認められています。
  • 芸術的価値: 金泥による特殊な彩色や、特徴的な造形は、能面芸術の多様性と奥深さを示すものです。特に、神聖な役柄にふさわしい威厳と、狐神特有の躍動感を兼ね備えた表現は、能面師の優れた技術と感性を物語っています。
  • 能楽への影響: 「泥小飛出」のような特定の役柄に特化した能面は、演者の演技を引き立て、能の舞台に深みと臨場感をもたらしてきました。特に「小鍛冶」などの演目において、この面が持つ象徴的な意味合いは、観客の想像力を刺激し、物語の世界観をより豊かにする上で重要な役割を担っています。

「動物の仮面」という展示会タイトルは、この能面が単なる人間の表情を超え、神や精霊といった非人間的な存在、特に動物的な要素を持つ存在をいかに能楽が表現してきたかを示すものとして、その多面的な魅力を提示する意図があると言えるでしょう。