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乾闥婆(獅子冠)

和歌山・丹生都比売神社伝来

この作品、「乾闥婆(獅子冠)」は、和歌山県伊都郡かつらぎ町にある丹生都比売神社に伝来した、鎌倉時代十四世紀に制作された木造彩色の舞楽面です。現在は東京国立博物館に所蔵されており、国の重要文化財に指定されています。

どのような背景・経緯・意図で作られたのかについて説明します。 丹生都比売神社は、弘法大師空海が高野山を開創するにあたり、神領を譲り受けたという伝承を持ち、古くから高野山と密接な関係にありました。そのため、神道と仏教が融合した信仰形態が色濃く見られます。この作品も、高野山の僧侶によって丹生都比売神社の神前で執り行われていた「舞楽曼荼羅供」という法会で使用されたものの一つと考えられます。舞楽曼荼羅供は、国の平和と人々の幸せを祈る鎮護国家の法会であり、大陸から伝来した荘厳な芸能である舞楽が、神々への奉納として演じられていました。この面は、その舞楽の演目の一つで使われた仮面で、神仏に供物を捧げ、神と人が共に楽しむ「神人和楽」の空間を創り出すという意図のもとに制作されました。丹生都比売神社に伝わる舞楽装束や舞楽面は、当時最高水準の舞楽を求めていた高野山の矜持をうかがわせるものでした。明治初期の神仏分離政策により、多くの仏教色の強い宝物が神社から移され、この面もその際に東京国立博物館へ渡ったとされています。

どのような技法や素材が使われているのかについて説明します。 この「乾闥婆(獅子冠)」は、木造で制作され、彩色が施されています。具体的な木の種類についての記載は見当たりませんが、当時の舞楽面としては一般的な木材が用いられたと考えられます。彩色によって、乾闥婆と獅子の持つ神聖さや力強さが表現されています。大きさは縦十九点六センチメートル、横十五点七センチメートルです。

どのような意味を持っているのかについて説明します。 「乾闥婆」とは、仏教における八部衆の一つで、音楽を司る天界の存在です。香を食し、空中を飛び回って仏を供養すると言われています。この面には「獅子冠」とあるように、獅子の意匠が組み合わされており、乾闥婆が獅子を象った冠を被った姿を表していると考えられます。獅子は、百獣の王として古くから威厳や力強さの象徴とされ、仏教においては仏法の守護や、仏の説法の喩えである「獅子吼」などにも関連付けられる聖なる動物です。したがって、この面は、天界の音楽を奏でる乾闥婆の神聖さと、獅子の持つ力強い威厳を兼ね備えた存在を表現し、舞楽を通じて場を清め、神仏への祈りを捧げる意味を持っていたと言えるでしょう。

どのような評価や影響を与えたのかについて説明します。 「乾闥婆(獅子冠)」は、国の重要文化財に指定されており、その歴史的・美術的価値が高く評価されています。丹生都比売神社に伝わる舞楽面群の一つとして、中世の仮面芸術の優品として位置づけられています。特に、高野山の鎮守社であった丹生都比売神社から伝来した行道面や舞楽面は、東京国立博物館が所蔵する仮面コレクションの中でも中核をなすものとされており、日本の神仏習合文化と、高野山における舞楽の隆盛を物語る貴重な資料として、後世の研究や展示に多大な影響を与えています。また、丹生都比売神社が世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の一つとして登録された理由には、神道と仏教が融合した文化的景観が評価されており、この面はその象徴の一つとも言えます。