和歌山・丹生都比売神社伝来
この作品は「行道面 五部浄居天」という仮面で、和歌山県の丹生都比売神社に伝来したものです。現在は東京国立博物館に所蔵されており、重要文化財に指定されています。
どのような背景・経緯・意図で作られたのか?
この仮面は、鎌倉時代の十四世紀に作られました。 丹生都比売神社は、高野山の鎮守社として古くから深い関係を持つ神社です。 弘法大師空海が高野山を開山するにあたり、丹生都比売大神が神領を高野山に貸し与えたという伝承があり、神仏習合の信仰形態を色濃く残しています。 「行道面」とは、仏教の法会における行列(行道)で用いられる仮面で、神や仏、あるいはその眷属に扮して練り歩く儀式に使われました。 「五部浄居天」は仏教の守護神である八部衆の一尊であり、仏教の儀式において、仏法を守り、信仰者を守護する役割を担っていたと考えられます。 丹生都比売神社が神仏習合の地であったことから、このような仏教系の仮面が伝わったと考えられます。
どのような技法や素材が使われているのか?
この仮面は木造で、彩色が施されています。 寸法は高さ二十四点二センチメートル、幅十五点四センチメートルです。
どのような意味を持っているのか?
「五部浄居天」は、仏教の八部衆、または天龍八部衆と呼ばれる仏法を守護する八神の一つです。 八部衆は、もともと古代インドの鬼神や戦闘神、音楽神、動物神などが仏教に帰依し、護法善神となったものです。 特に五部浄居天は、色界の最高位である色究竟天に住む五人の阿那含(あながん)の聖者(浄居天)を合わせた一尊とされています。 陀羅尼(だらに)にすがる者を守護すると信じられています。 特徴として、象の頭部を持つ冠をかぶり、少年のような表情で造形されることが多いです。 この仮面が「動物の仮面」という展示会タイトルに合致するのは、この象頭の表現に由来していると考えられます。 かつては仮面裏の墨書から焔魔天(えんまてん)と呼ばれていたこともありますが、二十八部衆に焔魔天が含まれる例は知られていないため、本来は象頭の冠をかぶる五部浄居天の仮面であった可能性が高いとされています。
どのような評価や影響を与えたのか?
「行道面 五部浄居天」は、丹生都比売神社に伝わる中世の行道面・舞楽面群の中でも、重要な位置を占めています。 これらの仮面群は、東京国立博物館の仮面コレクションの中核をなしています。 丹生都比売神社は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界文化遺産に登録されており、この仮面はその歴史的・文化的な重要性を示す貴重な遺産の一つです。 神社が持つ神仏習合の歴史、高野山との深い関わりを伝える美術工芸品として高く評価されています。