舞楽面 納曽利(ぶがくめん なそり)について、その背景、技法、意味、評価と影響を詳細に説明いたします。
作品詳細 展示会タイトル:動物の仮面 アーティスト名: 作品名:舞楽面 納曽利 作品詳細:
舞楽面 納曽利は、日本の古典芸能である雅楽(ががく)の一部をなす舞楽(ぶがく)で用いられる仮面の一つです。特定の個人アーティストの作品というよりは、古くから伝わる伝統的な様式に基づいて制作されてきたものです。今回の「動物の仮面」という展示会では、納曽利が持つ動物的な特徴に焦点を当てていると考えられます。
1.どのような背景・経緯・意図で作られたのか? 舞楽「納曽利」は、奈良時代に高句麗(こうくり)から日本に伝わったとされる舞楽で、日本の伝統文化の中で非常に古い歴史を持ちます。別名「双龍舞(そうりゅうまい)」とも称され、二匹の龍が天上で舞い遊ぶ様子を表現していると言われています。一般的には右方舞(うほうまい)に属する高麗楽(こまがく)で、左方舞の「蘭陵王(らんりょうおう)」と対(つがい)で舞われる番舞(つがいまい)として知られています。かつては、競馬や相撲の節会(せちえ)など、勝敗を伴う行事で、右方が勝った際に「納曽利」が、左方が勝った際に「蘭陵王」が舞われるなど、勝者を祝うおめでたい演目として演じられました。平安時代の宮廷では大変人気があり、『源氏物語』や『枕草子』といった古典文学にも登場します。特に清少納言は、舞の途中で舞人が腰を落とし蹲踞(そんきょ)する姿が風情があるとして好み、この舞を「落蹲(らくそん)」と呼ぶこともありました。
この仮面は、舞人が龍の精霊や姿を借りて舞うという舞楽の演出意図に基づき、観る者にその世界観を伝えるために制作されました。
2.どのような技法や素材が使われているのか? 舞楽面「納曽利」は、主に木を彫り出して制作され、表面には彩色が施されます。 具体的な素材としては木製で、紐は正絹、目には不可動タイプが使われることが多いです。髪や髭には馬毛が用いられることもあります。
その表現には、舞楽面独特の技法が見られます。たとえば、眼球が動くように作られた「動眼(どうがん)」や、顎の部分が紐で吊られ、舞の動きに合わせて開閉する「吊顎(つりあご)」といった工夫が施されることがあります。これらの技法により、舞人の動きに合わせて表情が豊かに変化し、まるで仮面が生きているかのような迫力が生まれます。 納曽利の面は、多くの場合、まるく目をむき、鋭い牙をあらわした恐ろしい表情に特色があります。
3.どのような意味を持っているのか? 「納曽利」の面は、舞楽「納曽利」が「双龍舞」とも称されるように、竜をかたどったものとされています。 この面を着用した舞人が、雌雄二匹の龍が遊び戯れる様子を表現し、天に昇るような喜びや祝賀の感情を象徴します。 その表情は、荒々しさの中にどこか飄々とした、親しみやすさも感じさせる独特なものです。
二人舞で用いられる場合、金青色の面を、一人舞の場合は紺青色の龍頭を模した牙のある面を着けるのが一般的です。 このように、面の色や形状によって、舞の持つ意味合いや役柄の性格が微妙に表現されます。
4.どのような評価や影響を与えたのか? 舞楽面「納曽利」は、雅楽の重要な要素として、日本の舞台芸術や工芸、ひいては文化全体に多大な影響を与えてきました。その芸術性の高さから、鎌倉時代から室町時代にかけて制作された実物の面が、国の重要文化財に指定されている例も少なくありません。
舞楽「納曽利」は、番舞である「蘭陵王」とともに舞楽の中でも最も一般的な演目の一つであり、その面の遺品も全国に広く分布しています。 また、その独特の造形美は、後世の能や狂言、歌舞伎といった日本の演劇文化における仮面制作にも影響を与えたと考えられます。
現代においても、舞楽「納曽利」は宮内庁式部職楽部によって継承され、また各地の神社などで奉納されるなど、その伝統が大切に守られています。 日本の古典芸能の象徴の一つとして、国内外の多くの人々に鑑賞され、日本の美意識や精神性を伝える役割を担い続けています。
今回の「動物の仮面」という展示会で「舞楽面 納曽利」が紹介されることは、この伝統的な仮面が持つ動物的な造形や象徴性を改めて現代の視点から考察し、その魅力を再発見する機会となるでしょう。