オーディオガイド トップに戻る
0:00
0:00

舞楽面 陵王

作品名:舞楽面 陵王

この作品は、「動物の仮面」という展示会に出品された「舞楽面 陵王(ぶがくめん りょうおう)」についてご説明します。舞楽面とは、日本の伝統芸能である雅楽(ががく)の中の舞楽(ぶがく)で舞人が着用する仮面です。特に陵王の面は、その歴史的背景や造形において、非常に重要な位置を占めています。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか? 舞楽面は、飛鳥時代に大陸から伝わった仏教芸能である伎楽(ぎがく)が衰退した後、代わって新しく伝来した舞楽で用いられるようになりました。舞楽は平安時代に宮廷儀式として盛んに演じられ、神社や寺院にも取り入れられ定着しました。陵王の舞は、中国の北斉(ほくせい)の武将、蘭陵王長恭(らんりょうおうちょうきょう)の故事に由来すると言われています。彼は美貌の持ち主であったため、戦場では恐ろしい仮面を着けて敵を威嚇し、大勝利を収めたとされます。この舞楽面 陵王は、その伝説上の武将の威厳と勇猛さを表現するために制作されました。面を着用することで、舞人は人間離れした力強さや感情を視覚的に強調し、観客に深い印象を与えることを意図しています。また、鎌倉時代以降、武士が実権を握る社会になる中で、朝廷や有力武将(藤原、平家、源氏、徳川など)がそれぞれ独自の舞楽面 陵王を制作させ、最高の技術と品位をもって作られた特別な面として扱われてきました。

どのような技法や素材が使われているのか? 舞楽面の多くは、木製で、主に軽くて彫刻しやすい桐(きり)や樟(くすのき)が用いられます。桜材が使われることもあります。古い時代のものには、木心乾漆技法(もくしんかんしつぎほう)と呼ばれる、木の芯に麻布を漆で貼り重ねて作る技法が見られることもありますが、平安時代以降は木彫技術の向上により、木彫が主流となりました。 舞楽面 陵王の制作においては、特に高度な技術が要求されます。木地を全面的に漆で固めて研ぎ上げた上から、漆箔(しっぱく)と呼ばれる金箔を施すことが基本とされています。その上に、同じ漆を使った色漆(いろうるし)で彩色が施されるのが一般的です。これは、舞楽の激しい動きや汗などに対する耐久性を高めるための工夫であり、能面で用いられる胡粉(ごふん)による彩色とは異なる、専門的な技術が使われています。

どのような意味を持っているのか? 陵王の面は、舞楽の演目「陵王」に登場する主人公の姿を象徴しています。伝説の武将が戦場で仮面を着けて勇猛さを誇示したように、この面もまた、舞を通じて英雄の力強さ、威厳、そして時には悲哀といった複雑な感情を表現する役割を担っています。非常に力強く、獣のような(龍のような)特徴を持つ造形は、見る者に畏敬の念を抱かせ、舞の持つ精神性を深める意味合いを持っています。

どのような評価や影響を与えたのか? 平安時代から鎌倉時代にかけて作られた優れた舞楽面は、当時の貴族文化における優雅な生活や思想、そして繊細な美意識を表現しているものとして高く評価されています。伎楽面よりも能面に近く、一瞬の感情ではなく、より洗練され、デフォルメされた表情で、舞楽の伴奏音楽に合致する演出効果を生み出しました。 今回「動物の仮面」展に出品された「舞楽面 陵王」は、鎌倉時代である承元五年(西暦一二一一年)に制作されたもので、愛知県の真清田神社(ますみだじんじゃ)が所蔵する重要文化財です。 このように国宝や重要文化財に指定される作品も多く、日本の仮面文化の最高峰の一つとして、その芸術的価値と歴史的価値が広く認められています。また、その造形は他の芸術にも影響を与え、例えば京都の先斗町歌舞練場(ぽんとちょうかぶれんじょう)の鬼瓦の裏側には、蘭陵王の舞楽面をモチーフにした装飾が見られるなど、現代にもその影響が及んでいます。 「動物の仮面」展では、狂言の猿や狐など、直接的な動物の顔を写実的に表した仮面から、鳥を擬人化した舞楽面「崑崙八仙(こんろんはっせん)」、そしてこの「舞楽面 陵王」のように、獅子でありながら人間に近い容貌を持つものまで、多様な表現の動物仮面が一堂に会しました。この展覧会は、人々が動物を演じることを楽しみ、芸能に登場する動物に親しみを抱いてきた歴史や、動物に対するまなざしを再認識させる機会となりました。