Pablo Picasso
パブロ・ピカソの「小さな丸帽子を被った座る女性」は、一九四二年という、第二次世界大戦の真っただ中という激動の時代に制作されました。この作品は、画家が愛した女性たちの肖像画を数多く手掛けた時期の一環であり、特にドラ・マールとの関係が深く影響を与えた時代に描かれたものと考えられています。国立西洋美術館に所蔵されており、井内コレクションからの寄託作品です。
制作背景と経緯、意図について
一九四二年は第二次世界大戦の最中であり、ピカソはパリに留まっていました。彼の作品は、この困難な時代や自身の感情、そして身近な人間関係を色濃く反映しています。この作品が制作された頃、ピカソは写真家ドラ・マールと深い関係にあり、彼女は一九三七年から一九四四年頃にかけて、ピカソの主要なミューズの一人でした。 ピカソは生涯にわたり、家族や友人、そして恋人たちを自由に描き、一人の人物が持つ多面性や、彼自身の変化する感情を一連の肖像画を通して表現しようと試みていました。 「小さな丸帽子を被った座る女性」もまた、彼の身近な女性の一人を描くことで、当時の個人的な心情や、時代の不安感を表現しようとする意図があったと推測されます。
技法と素材について
この作品は、油彩でカンヴァスに描かれています。 ピカソは、対象を複数の視点から捉え、一つの画面に再構築するキュビスムの手法を発明し、従来の理想的な人体美の伝統を根底から覆しました。 この作品においても、具象的な女性像でありながらも、顔のパーツや身体のプロポーションには、ピカソ特有のデフォルメが見られます。特に、指が異常に長く、手が大きく描かれている点は、その特徴的な表現の一つです。 これは単なる写実的な描写ではなく、画家の内面的な視点や感情が反映された結果と言えるでしょう。
意味について
「小さな丸帽子を被った座る女性」は、具体的なモデルがドラ・マールであると明記されているわけではありませんが、当時の彼の女性像の多くが彼女をモデルにしていることから、関連付けられることが多いです。 この絵に描かれた女性の表情や身体のねじれ、あるいは歪みは、ピカソとドラ・マールとの間の複雑な関係性や、不安定な時代背景の中で感じていたであろう心理的な緊張感を暗示している可能性があります。ピカソは、女性の肖像画を通して、彼女たちの多面的な個性や、それに対する自身の移ろいゆく感情を表現しようとしました。 この作品も、単なる肖像画に留まらず、人間の内面や感情の複雑さを探求するピカソの姿勢が表れていると言えます。
評価と影響について
「小さな丸帽子を被った座る女性」は、国立西洋美術館の貴重なピカソコレクションの一部として、一般に公開されています。 ピカソは、その画業を通じて絶え間なく作風を変化させ、美術の領域を広げ、後世の芸術家たちに計り知れない影響を与えました。 この作品も、彼の多岐にわたる人物画の表現と主題、その革新性と多様性を示す一例として高く評価されています。特に、第二次世界大戦中のピカソの創作活動を知る上で重要な作品であり、彼の作品がいかに時代や個人的な経験と密接に結びついていたかを物語っています。この作品は、ピカソの人物画が持つ普遍的な魅力と、彼の芸術が現代においてもなお影響力を持ち続けていることを示しています。