Pablo Picasso
パブロ・ピカソの作品「顔」は、1928年に制作されたリトグラフで、国立西洋美術館に所蔵されています。この作品は、ピカソの私生活と芸術が密接に結びついた、非常に興味深い背景と意味を持っています。
どのような背景・経緯・意図で作られたのか? この作品は、パブロ・ピカソが当時17歳だったマリー・テレーズ・ワルテルと出会い、彼女に深く魅了された時期に制作されました。ピカソは1927年にパリの街角でマリー・テレーズと出会い、彼女の「面白い顔」に惹かれ、「きみの肖像画を描いてみたい」と声をかけたといわれています。この出会いが、ピカソのその後の芸術に大きな影響を与え、彼女は彼の重要なミューズとなりました。1928年の「顔」には、早くも画家を魅了したマリー・テレーズの、鼻筋の通った「ギリシャ風の横顔」が大胆なクローズアップの構図で描かれています。この作品は、ピカソが新たな恋人への情熱と、その古典的な美しさへの探求を表現しようとした意図が込められています。
どのような技法や素材が使われているのか? この作品は「リトグラフ」という版画技法を用いて制作されています。リトグラフは石版画とも呼ばれ、水と油の反発作用を利用して版を制作し、刷り取る技法です。ピカソは生涯にわたり様々な技法に挑戦しましたが、特に版画制作にも力を入れていました。作品のサイズは20.4 x 14.2 cmで、右下余白にピカソの署名があります。
どのような意味を持っているのか? 「顔」は、ピカソの新しい恋愛関係を象徴する作品であり、マリー・テレーズ・ワルテルという特定の人物の肖像として重要な意味を持ちます。彼女の「ギリシャ風の横顔」は、ピカソがこの時期に傾倒していた新古典主義的な要素とシュルレアリスム的な要素が混在する作風を反映しています。ピカソは彼女の肖像を繰り返し描き、その姿は彼の作品において、生命力や官能性を象徴する存在となっていきました。
どのような評価や影響を与えたのか? 1928年頃のピカソは、キュビスムの探求から一転し、新古典主義の様式を取り入れつつ、シュルレアリスムの思想にも共鳴していました。この時期、彼の作品には幻想的な生き物が登場したり、妻オルガとの不和が影響したとされる「化け物のようなイメージ」が描かれたりすることもありますが、マリー・テレーズ・ワルテルの登場は、彼の芸術に新たな方向性をもたらしました。 マリー・テレーズは、その後のピカソの作品に最も多く登場する女性の一人となり、彼女の存在は「顔」を含む多くの作品を通じて、ピカソの多岐にわたる作風の変遷と、愛と欲望といった普遍的なテーマを探求する上で不可欠な要素となりました。この作品自体も、ピカソの主要な版画作品として、ゲイザー、ムールロー、ブロックといった重要な版画カタログに記録されており、その芸術的価値が認められています。 国立西洋美術館には1978年に購入され所蔵されており、これまでに「ピカソ展」や「ピカソ版画展」、「ピカソ:愛と苦悩―『ゲルニカ』への道」など、数多くの展覧会で展示されてきました。 これらの展示を通じて、日本の鑑賞者にもピカソの1920年代後半の重要な一面を伝える役割を果たしています。