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貧しき食事

Pablo Picasso

ピカソの「貧しき食事」について、その背景、技法、意味、そして評価と影響を詳しく説明します。


この作品は、パブロ・ピカソが若き日に手がけた傑作版画であり、彼の芸術人生における重要な転換点を示すものです。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか?

「貧しき食事」は、一九〇四年に制作されました。この時期は、ピカソがスペインからパリに本格的に移り住み、モンマルトルの「洗濯船」というアトリエ兼アパートに暮らし始めた頃にあたります。彼はまだ二十三歳で、自身も極貧の生活を送っていました。当時のピカソの作品は、親友の自殺に衝撃を受けたことをきっかけに、内省的で憂鬱なテーマを青い色調で描いた「青の時代」と呼ばれる時期の終盤にあたります。

この作品は、その「青の時代」の主題である、貧困、孤独、死、そして社会の周縁に生きる人々、例えば盲人や貧しい母子などに向けられた深い眼差しが凝縮されています。 しかし、同時に、その後の「ばら色の時代」へと移行する兆しも見せています。描かれた女性の表情にかすかな微笑みが読み取れることから、絶望的な貧しさの中にも、互いを慈しみ、生きる喜びを見出そうとする人間の尊厳を描こうとした意図がうかがえます。

技法や素材はどのようなものが使われているのか?

「貧しき食事」は、エッチングという銅版画の技法を用いて制作されました。 ピカソにとって、これは本格的に版画制作に取り組んだ最初の作品であり、正規の訓練をほとんど受けていなかったにもかかわらず、驚くべき技術的熟練度を示しています。

制作には、当時高価であった新しい銅板を買うことができず、友人のジョアン・ゴンザレスが以前風景画を描くために使用していた亜鉛板を再利用し、その上から描かれました。 繊細な線が何層にも重ねられ、画面に緊張感を与え、強い明暗のコントラストによって、場面はよりドラマティックに表現されています。 この作品は一九〇四年制作ですが、美術商アンブロワーズ・ヴォラールが版を購入し、一九一三年に鋼鉄補強を施した上で二五〇部限定で刷られ出版されました。

どのような意味を持っているのか?

作品には、わずかな食事を前に肩を寄せ合うやせ細った男女が描かれています。 テーブルにはワインボトルと二つの空のグラス、空の皿、そして一片のパンしかありません。 男性の目は閉じられ、盲目であるかのように見えます。彼は不自然な方向に顔を向けながらも、女性の肩をしっかりと抱き寄せています。女性は鑑賞者に直接視線を向け、かすかに微笑んでいるようにも見えます。

二人の間には会話がなく、視線も交わされませんが、互いに寄り添う姿からは強い絆や、貧しいながらも人生を分かち合う静かな愛情、あるいは人間としての深い孤独と悲哀が伝わってきます。 細長くやせ細った指や、角ばった顔、やつれた体からは、貧困の厳しさが強く表現されています。 一部の解釈では、男性の姿はアルコール依存症の悲惨さを示しているとも言われますが、作品全体から漂うもの悲しい雰囲気は、親友の死に苦悩していたピカソ自身の精神状態をも反映していると考えられます。 「青の時代」にピカソが描いた盲人のテーマは、「真実の視覚とは心の目で見ることだ」というメッセージを込めているとも言われています。

どのような評価や影響を与えたのか?

「貧しき食事」は、ピカソが生涯にわたって手がけた膨大な版画作品の中でも、初期の代表作であり、最も有名な版画の一つとして高く評価されています。 ピカソの版画制作の本格的な出発点とされ、彼の後のグラフィックワークに大きな影響を与えました。

この作品は、「青の時代」の憂鬱な主題と、「ばら色の時代」の旅芸人やサーカスの世界、人間への共感というテーマをつなぐ橋渡しのような存在としても重要視されています。 その表現力と技術的な完成度は、わずか二度目のエッチングであったことを考えると驚異的であり、その後の二〇世紀美術における革新的な表現の可能性を切り拓く先駆けとなりました。

近年、ピカソの油彩作品が高騰する中で、版画作品の価値が見直され、「貧しき食事」のような傑作は国際的なオークションで非常に高額で取引されています。 国立西洋美術館にも所蔵されているこの作品は、世界中の美術館やコレクターから重要な作品として認識され続けています。