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「四匹の猫」での展覧会パンフレット

「四匹の猫」での展覧会パンフレットについて、ピカソの活動と作品の背景、技法、意味、そして評価と影響について説明いたします。


この作品、またはこの作品が指し示すピカソの「四匹の猫」というテーマは、彼が青年期を過ごしたバルセロナの伝説的なカフェ「エルス・クアトラ・ガッツ」での活動に深く関連しています。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか? 「エルス・クアトラ・ガッツ」、カタルーニャ語で「四匹の猫」と呼ばれるこのカフェは、一八九七年にバルセロナのムンシオー通りにオープンしました。これは、建築家ジュゼップ・プッチ・イ・カダファルクが設計したカザ・マルティーの一階に設けられ、画家のラモン・カザス、サンティアゴ・ルシニョール、ミケル・ウトリーリョ、ペラ・ルメウの四人によって開店しました。彼らはパリの有名なキャバレー「ル・シャ・ノワール」に影響を受けており、カフェの名称「四匹の猫」も、カタルーニャの口語で「ごく少数の人々」を意味することから、少数精鋭の芸術家たちの集いを象徴しています。

このカフェは、一九世紀末から二〇世紀初頭にかけてカタルーニャ地方で興った芸術運動「ムダルニズマ」、すなわちモデルニスモの中心地となりました。展覧会やコンサートなどの表現活動の場であり、美術雑誌の発行を通じた情報発信の場でもありました。

パブロ・ピカソは、一八九九年からこのカフェに出入りするようになります。当時、マドリードの美術アカデミーを中退し、バルセロナに戻っていたピカソにとって、「四匹の猫」は、アカデミックな教育と決別し、新しい芸術潮流に触れる重要な場所でした。彼はここで多くの芸術家や知識人と交流を深め、自身の芸術スタイルを模索しました。

ピカソがこのカフェで作品を制作した意図は、若き芸術家としての自身の存在を確立し、新しい表現を試みることでした。一九〇〇年二月には、彼はここで初めての個展を開催し、約百五十点もの肖像デッサンを展示しました。これは、当時のバルセロナ画壇の大御所ラモン・カザスが成功を収めていた肖像画シリーズに対抗するものでもありました。また、ピカソはカフェのためにメニューやポスターのデザインも手掛けており、これらは実用的な目的と同時に、彼自身の実験と表現の場でもありました。

どのような技法や素材が使われているのか? ピカソが「四匹の猫」関連で制作した作品は多岐にわたります。個展で発表された肖像デッサンには、鉛筆やインクが主な素材として用いられました。国立西洋美術館に所蔵されているラモン・カザスによる「ぺラ・ロメウと四匹の猫」(一八九七年頃)も、鉛筆とインク、紙が使用された素描です。

また、カフェのメニューやポスターのデザインには、リトグラフなどの版画技法が使われました。さらに、ピカソはカフェの内部や外部を描いたデッサン、パステル画、油彩画なども数多く残しています。

どのような意味を持っているのか? 「四匹の猫」は、ピカソにとって自身の芸術的アイデンティティを形成する上で極めて重要な場所でした。ここで彼は、アカデミックな制約から解放され、友人や常連客の肖像を描きながら、人間観察と表現の実験を重ねました。これらの作品は、後の彼の「青の時代」へと繋がる内省的で社会的なテーマへの関心の萌芽を見ることができます。

このカフェ自体も、カタルーニャのモデルニスモ運動の象徴であり、当時の芸術家たちが自由に議論し、インスピレーションを交換する場でした。ピカソの作品は、この活気ある芸術的コミュニティの一員として、彼が自己表現を確立していく過程を示しています。

どのような評価や影響を与えたのか? 「四匹の猫」は、バルセロナにおけるモデルニスモ運動の中心地として、多くの芸術家たちに影響を与えました。その活動は短命ながらも、雑誌「クアトラ・ガッツ」の発行などを通じて、当時の芸術潮流を伝えました。

ピカソにとって、このカフェでの経験と作品制作は、彼の初期キャリアにおける重要なステップでした。ここで開催された初の個展は、彼が若手芸術家として世に出るきっかけとなり、その後の「青の時代」や「バラ色の時代」といったスタイルへと発展していく基盤を築きました。カフェで制作された作品群は、彼の人間像への深い洞察や、社会への視線が育まれる場となり、後の大作へと繋がる萌芽が見て取れます。

国立西洋美術館について 国立西洋美術館は、ピカソの「四匹の猫」の時代に関連する作品を所蔵しています。具体的には、ピカソが「四匹の猫」で初めて個展を開催した際に展示したような友人たちの肖像画、「リュイス・アレマニの肖像」(一八九九年から一九〇〇年制作)などを収蔵しています。 また、同美術館は、カフェ「四匹の猫」の中心人物の一人であるラモン・カザスによる「ぺラ・ロメウと四匹の猫」(一八九七年頃)という素描も所蔵しており、これはカフェの雰囲気を伝える貴重な資料となっています。 このように、国立西洋美術館は、ピカソの初期の芸術活動と「四匹の猫」との関わりを理解する上で重要な作品群をコレクションに加えています。