Ramon Casas
ラモン・カザスの「ペラ・ロメウと四匹の猫」について、詳しくご説明いたします。
作品の背景、経緯、意図
この作品は、1897年頃に制作されました。画家ラモン・カザスは、19世紀末から20世紀初頭にかけてスペイン・バルセロナで花開いた芸術運動「モデルニスモ」の中心人物の一人です。カザスは風刺画や肖像画で知られ、グラフィックデザイナーとしても活躍し、カタルーニャのモデルニスモ運動を広めるのに貢献しました。
「ペラ・ロメウと四匹の猫」は、バルセロナのモンシオー通りに1897年に開店した伝説的なカフェ「四匹の猫(Els Quatre Gats)」と深く関連しています。このカフェは、カザス、サンティアゴ・ルシニョール、ミケル・ウトリリョ、そして実業家のペラ・ロメウの4人が関わって開かれました。
「四匹の猫」は、パリのモンマルトルにあったキャバレー「ル・シャ・ノワール(黒猫)」に触発されて作られた場所で、安価な料理とピアノ音楽を提供し、バルセロナのモダニズム運動の中心地となりました。 芸術家たちの集いの場、展示スペース、音楽や文学の夕べ、人形劇、影絵芝居などが行われる前衛的なフォーラムとして機能しました。
作品に描かれている「ペラ・ロメウ」は、このカフェの共同創設者でありオーナーでもあったペレ・ロメウです。カフェの名前「四匹の猫」は、文字通り「4匹の猫」を意味しますが、カタルーニャ語で「少数の人々」、特に「少し変わった、あるいははみ出し者と見なされる人々」を指す表現に由来しています。 この作品は、カフェの精神や、そこに集まるボヘミアンな芸術家たちを象徴するものであったと考えられます。カザスは、このカフェのために「二人乗り自転車に乗るラモン・カザスとペラ・ロメウ」という油彩画を制作しており、この作品もカフェの雰囲気を伝えるものの一つでした。
技法や素材
「ペラ・ロメウと四匹の猫」は、鉛筆とインクで紙に描かれた素描作品です。 寸法は8.9 x 18.8センチメートルと小ぶりです。 ラモン・カザスは、肖像画や風刺画において優れた素描の技術を持っていました。彼のデッサンは人物の個性を捉えることに長けており、若き日のピカソもカザスのポスターや肖像画の技術を高く評価し、彼を模倣しようとしたと言われています。
作品が持つ意味
この作品は、「四匹の猫」というカフェ、そしてそこで繰り広げられたモデルニスモ運動の象徴的な意味合いを持っています。ペラ・ロメウは、カフェの顔として、そこに集まる芸術家たちの自由な精神と、新しい芸術の探求を促す雰囲気を作り出しました。四匹の猫は、そうした芸術家集団や、彼らが共有した独特の文化を暗示していると考えられます。
評価や影響
ラモン・カザスの作品は、モデルニスモ運動の普及に大きく貢献しました。 彼の絵画やポスターは、カタルーニャにおける新しい芸術の方向性を示すものとして評価されました。 特に「四匹の猫」は、若きパブロ・ピカソが個展を開催するなど、多くの芸術家が交流し、影響を与え合った重要な場所でした。 カザスは、このカフェの活動を通じて、若い芸術家たちに多大な影響を与えました。ピカソも、初期のデッサンや肖像画において、カザスの影響を受けていたとされています。
「ペラ・ロメウと四匹の猫」のような作品は、直接的に大きな社会的な影響を与えたというよりは、当時のバルセロナの芸術的・文化的活気を伝える貴重な資料として、またモデルニスモ運動の中心地であった「四匹の猫」という空間の精神を象徴する作品として、後世に大きな意味を残しています。この作品は、国立西洋美術館に所蔵されており、2019年3月に購入されました。
なお、展示会タイトル「ピカソ 青の時代を超えて」は、ピカソの「青の時代」を越えた画業全般に焦点を当てた展覧会であり、ラモン・カザスの作品は、ピカソの初期の活動と関連する文脈で展示されていると考えられます。ピカソも1899年頃から「四匹の猫」に通い、初期の作品をここで発表しています。