東京都美術館で開催中の「つくるよろこび 生きるためのDIY」展のご紹介です。この展覧会は、単なるものづくりを超え、私たち自身の創造性と、それが日々の「生きること」といかに深く結びついているかを問いかける、感動と発見に満ちた体験を提供します。現代社会において、既成の枠組みにとらわれず、自らの手で問題を解決し、新しい価値を生み出そうとする「DIY(Do It Yourself)」の精神は、ますますその重要性を増しています。本展は、このDIYというアプローチを多角的に捉え、アート、建築、そして人々の営みの中に息づく豊かな創造性を浮き彫りにします。
◎展覧会の見どころ
この「つくるよろこび 生きるためのDIY」展の最大の魅力は、その深遠なテーマと、それを具現化した作品群の多様性にあります。私たちは普段、完成された作品や製品に触れる機会が多いですが、この展覧会は、その制作過程や、そこに込められた作り手の試行錯誤、そして「なぜつくるのか」という根源的な問いへと私たちを誘います。身の回りにある何気ない素材が、アーティストの手によって新たな命を吹き込まれ、驚くべき表現へと昇華する瞬間を目の当たりにするでしょう。
本展では、現代美術の分野で活躍する五組のアーティストと、創造的なアプローチで空間をデザインする二組の建築家、合計七組の表現者たちが集結しています。彼らはそれぞれ異なる背景を持ちながらも、「DIY」という共通のキーワードのもと、絵画、版画、ドローイング、言葉、写真、映像、インスタレーション、そして建築的介入といった多岐にわたる表現形式で、会場を彩ります。一つのジャンルにとどまらず、素材も手法も自由自在に操る彼らの作品は、まさに「既存の枠にとらわれない」という本展のコンセプトを体現しています。
また、本展は「つくるよろこび」を一方的に鑑賞するだけでなく、来場者自身がその喜びを体験できる「参加型」の要素を数多く含んでいます。実際に手を動かして作品づくりに参加できるワークショップや、アーティストや建築家との対話を通じて考えを深めるトークセッションなど、多様なプログラムが用意されています。これは、鑑賞者もまた創造の一翼を担い、能動的に展覧会に関わることで、より深く「DIY」の精神を理解し、自身の内なる創造性を発見する機会となるでしょう。
さらに、この展覧会は、私たちが直面する社会的な課題にも目を向けさせます。震災や経済的な困難によって、多くのものを失いながらも、自らの工夫と知恵で生活を立て直し、日々を営む人々の切実な活動にも焦点を当てています。ここでは、DIYが単なる趣味の領域を超え、生存のための知恵であり、困難な状況を生き抜くための希望の光となる様が描かれています。それは、人間の持つ本質的な強さ、回復力、そして何もないところからでも新しいものを生み出す創造性の尊さを教えてくれるはずです。
「つくるよろこび 生きるためのDIY」展は、私たちの「つくる」という行為が、いかに「生きる」という行為と密接不可分であるかを、五感を刺激する多様な作品と体験を通して教えてくれます。それは、美術館という場が、単に過去の遺産を展示するだけでなく、現代の問いに向き合い、未来の可能性を拓く場であることを再認識させてくれるでしょう。
◎展覧会の流れを意識した構成
さあ、それでは「つくるよろこび 生きるためのDIY」展の会場へと足を踏み入れ、その感動の道のりを辿っていきましょう。この展覧会は、来場者が「DIY」という概念を段階的に深めていけるよう、丁寧に構成されています。
序章:自らつくる、生きる喜びの始まり
美術館の入り口をくぐり、この展覧会の世界へと足を踏み入れた瞬間、私たちはまず、展示の核となるメッセージに迎えられます。そこには、「DIY」という言葉が持つ多義性、そしてそれが単なる「日曜大工」の枠を超え、いかに私たちの生活、文化、そして人間としての本質に深く根差しているかが示唆されていることでしょう。 この序章では、これから始まる「つくるよろこび」の旅への期待感を高めるような導入が展開されます。展示の冒頭には、本展に参加する七組の表現者たちの多様な顔ぶれが紹介され、それぞれがどのような視点から「DIY」というテーマにアプローチしているのか、その豊かな多様性が示されることでしょう。例えば、廃材や日常的なオブジェが、見慣れない形で提示され、鑑賞者の好奇心を掻き立てるかもしれません。それは、私たち自身の身の回りにも、まだ見ぬ創造性の種が潜んでいることを示唆しているかのようです。 この最初のセクションは、固定観念を解き放ち、これから目にするであろう斬新な表現や、心のこもった手仕事に、心を開くための準備となる空間です。展示空間全体から、「自分でやってみよう」「既成概念にとらわれず自由に発想しよう」という、温かくも力強いメッセージが伝わってくるはずです。
第一章:日常からの創造 - 身近な素材が語る物語
次に私たちが誘われるのは、最も身近な素材から生み出される「創造のよろこび」を体験する章です。ここでは、若木くるみさんの作品のように、日用品や廃材といった、本来であればアートとは結びつきにくい素材が、驚くべき変貌を遂げている様子を目の当たりにするでしょう。 例えば、使い古された段ボールやプラスチック容器、古着の切れ端などが、版画の素材となったり、立体的なオブジェへと生まれ変わったりしているかもしれません。若木くるみさんは、身近なものを版として用いることで、私たち自身の生活の中に潜む美しさや、見過ごされがちなものの価値を再発見させてくれます。その作品は、私たちに「こんなものでもアートになるのか」という驚きと同時に、「自分にもできるかもしれない」という親近感を与えてくれることでしょう。 この章は、既にあるものを消費するだけでなく、自らの手で加工し、組み換え、新しい意味を与えるという「DIY」の本質を直感的に理解させてくれます。素材が持つ歴史や、使い手の記憶を内包しながら、新たな姿で提示される作品たちは、私たちに、ものと人との関係性、そして創造の無限の可能性について深く考えさせます。ここでは、完璧さよりも、手仕事の温かみや、試行錯誤の痕跡が、かけがえのない魅力として輝いています。
第二章:記憶と対話 - 人と土地、そして時間の織りなす表現
続いて私たちは、より深く人間と社会、そして時間との関わりを探る章へと進みます。このセクションでは、瀬尾夏美さんによる土地の記憶と人々の物語を紡ぐドローイングや文章、そして野口健吾さんが都市の片隅で生きる人々の姿を捉えた写真や映像作品などが展示されます。 瀬尾さんの作品は、特定の土地に暮らす人々の声に耳を傾け、彼らの日常や歴史、そして感情を繊細な筆致と感性豊かな言葉で表現します。それは、一見すると個人的な営みであるDIYが、実は地域や共同体の記憶と深く結びつき、次世代へと受け継がれていく文化的営みであることを示唆しています。彼女の作品に触れることは、他者の物語に共感し、自分自身のルーツやアイデンティティを再考するきっかけとなるでしょう。 一方、野口健吾さんの作品は、都市という広大な空間の中で、時に見過ごされがちな個々人の生活、特に困難な状況に置かれた人々の営みに光を当てます。彼らが厳しい現実の中で、いかに工夫を凝らし、自らの手で生活を「つくり」、尊厳を保ちながら「生きている」かを静かに、しかし力強く伝えます。 これらの作品は、DIYが単なる趣味ではなく、まさに「生きるための術」であり、人間の回復力と創造性の証であることを私たちに示します。この章全体を通じて、私たちはアートが持つ対話の力、そして記憶を継承し、共感を育む役割について深く考える機会を得るでしょう。
第三章:共創と再生 - 場をデザインし、未来を築く
さらに奥へと進むと、私たちは「DIY」が個人レベルの制作活動に留まらず、社会的な課題解決や、共同体の創造にまで広がっていく可能性を示す章に辿り着きます。ここでは、伊藤暁建築設計事務所やスタジオメガネといった建築家チーム、そしてダンヒル&オブライエンのような協働制作を行うアーティストの作品が紹介されます。 建築家たちは、既存の建築や空間に新たな視点を与え、人々が自ら関わり、利用できるような「開かれた場」をデザインしています。彼らの提案する空間は、単に美しいだけでなく、機能性や持続可能性、そして何よりも人々の参加を促す仕掛けに満ちています。例えば、地域の素材を活かしたワークショップ空間や、ユーザーが自由にレイアウトを変更できる可変性の高い家具など、実際に体験できるようなインスタレーションが展開されているかもしれません。 ダンヒル&オブライエンの作品は、素材とパフォーマンスを融合させ、鑑賞者をも巻き込むような協働的なインスタレーションを通じて、芸術表現の新たな地平を切り拓いています。彼らの作品は、一人の作者が完成させるという従来の概念を超え、参加者全員がクリエイターとなり、共に新しい価値を生み出す「共創」の楽しさを教えてくれます。この章では、DIYが、私たちの住む場所、働く場所、集う場所を、より豊かで意味のあるものに変えていく力、そして未来を自らの手で「デザインする」可能性を力強く提示しています。それは、東日本大震災や経済的困難といった状況下で、人々が手を取り合い、住まいや生活を再建していった「DIY」の精神にも通じるものでしょう。
第四章:体験と共感 - 私たちのDIY
展覧会の最終章では、これまで見て、感じ、考えてきた「DIY」の精神を、私たち自身が体験し、内面化する機会が与えられます。この章は、来場者が単なる受動的な鑑賞者ではなく、「つくるよろこび」の当事者となるための場として設計されています。 ここでは、実際に手を動かして何かを生み出すワークショップが開催されるスペースが設けられています。若木くるみさんの指導による版画制作や、瀬尾夏美さんの聞き書きワークショップなど、具体的なプログラムが期間限定で実施され、参加者はアーティストと共に創造のプロセスを体験できます。 美術館という神聖な空間で、自由に素材に触れ、自分の手で何かを作り上げる経験は、日頃の制約から解放され、純粋な「つくるよろこび」を再認識させてくれるでしょう。 また、毎週金曜日に開催される「織物BAR」のようなインタラクティブな企画も、この章の重要な要素です。 好きな毛糸や布を選び、自由に織物を楽しむことができるこの場は、作品を完成させることよりも、そのプロセス自体を楽しむDIYの精神を象徴しています。参加者同士が自然と対話を生み出し、それぞれの創造性を分かち合うことで、新たなコミュニティが形成される可能性も秘めています。 さらに、「DIYライブ」と題された建築家チームによるディスカッションや、18歳以下の学生とその保護者を対象とした「キッズ+U18デー」なども、この「体験と共感」の章に位置づけられるでしょう。 これらの多様なイベントは、世代や背景を超えて人々が「DIY」「つくる」「生きる」というテーマについて語り合い、考え、そして行動するきっかけを提供します。この章は、展覧会での鑑賞体験が、美術館を出た後の私たちの生活にまで広がり、日々の暮らしの中で「自分でやってみる」ことの価値を再認識させるための、かけがえのない機会となることでしょう。
◎全体のまとめ、結びの文章
「つくるよろこび 生きるためのDIY」展を巡る旅は、私たちに、創造性が決して特別な才能ではなく、誰もが持ちうる普遍的な力であることを強く訴えかけてくれます。美術館という洗練された空間の中で展開される、手仕事の温かみ、既成概念を打ち破る発想、そして困難を乗り越えるための知恵の数々は、私たち自身の内なる可能性を刺激し、日々の生活をより豊かに、より主体的に生きるためのヒントを与えてくれるはずです。
この展覧会は、単に美しい作品を鑑賞する場ではありません。それは、私たちが「何をつくるか」だけでなく、「なぜつくるのか」、そして「いかに生きるか」という根源的な問いに向き合うための、思考と体験のプラットフォームです。展示された作品群、そして参加型のプログラムを通して、私たちは、身の回りにある何気ない素材や出来事の中に、まだ見ぬ価値や意味を発見する視点を与えられます。それは、自らの手で何かを生み出すことの純粋な「よろこび」であり、そのプロセスを通じて自己と他者、そして社会との新たな関係性を築き上げていく「生きるためのDIY」の精神そのものです。
東京都美術館が提供するこの特別な機会は、現代社会において失われがちな「手でつくる」ことの意義、そして「自分でやってみる」ことの可能性を再発見するための貴重な時間となるでしょう。本展が、皆さんの日々に新たな視点と活力を与え、創造的な行動へと繋がるインスピレーションとなることを心から願っています。ぜひ、この感動的な展覧会に足を運び、あなた自身の「つくるよろこび」と「生きるためのDIY」を見つけてください。
会期は2025年7月24日木曜日から10月8日水曜日まで、東京都美術館ギャラリーA・B・Cにて開催されています。休室日は月曜日と9月16日火曜日(ただし8月11日、9月15日、9月22日の月曜日は開室)です。詳細は東京都美術館の公式サイトをご確認の上、ぜひご来場ください。