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水車のある北欧風景 / Northern Landscape with a Water Mill

アラールト・ファン・エーフェルディンゲン / Allaert van Everdingen

アラールト・ファン・エーフェルディンゲンによる「水車のある北欧風景」について、その詳細を説明いたします。

この作品は、オランダの画家、版画家であるアラールト・ファン・エーフェルディンゲンが描いた素描で、スウェーデン国立美術館の充実した素描コレクションの一部として展示されています。スウェーデン国立美術館の素描コレクションは、ルネサンスからバロックまでの名品を数多く所蔵しており、環境の変化に敏感な素描作品が約八十点も日本で公開されるのは貴重な機会です。スウェーデン国立美術館の素描は、世界的に見ても質、量ともに最高峰と評価されています。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか アラールト・ファン・エーフェルディンゲンは、一六二一年にアルクマールで生まれ、ユトレヒトの画家ルーラント・サーフェリーに師事しました。彼の芸術家としてのキャリアにおいて重要な転機となったのは、一六四四年から一六四五年頃の北欧への旅です。乗っていた船が嵐を避けてノルウェーに寄港し、その滞在中にノルウェーやスウェーデンの風景をスケッチする機会を得ました。平坦な国土を持つオランダの風景とは異なる、雄大な海や、滝のある森、岩壁といった北欧の険しい自然に深く感銘を受け、それを作品に表現するようになりました。この北欧への旅が、彼の芸術様式に決定的な影響を与え、「北欧風景」という新たなジャンルをオランダ絵画にもたらすことになります。エーフェルディンゲンは、その後一六四五年にハールレム、一六五七年からはアムステルダムに定住し、精力的に制作を続けました。この「水車のある北欧風景」も、彼が旅で得たインスピレーションをもとに、北欧のドラマチックな自然と、そこに佇む水車という人間活動の痕跡を描き出したものと考えられます。素描は、画家の思考や制作過程を直接的に示すものであり、アイデアを素早く記録したり、技法を磨いたりする目的で制作されました。また、素描そのものが独立した芸術作品として鑑賞されることもありました。

どのような技法や素材が使われているのか この作品は、「筆、ペン、褐色インク、褐色の淡彩、グラファイトによるあたりづけ、枠線、紙」という素材と技法が用いられています。 具体的には、筆やペンを使って褐色インクで線を描き、褐色インクを水で薄めた「淡彩(ウォッシュ)」を施すことで、明暗や奥行きを表現しています。これにより、インクの濃淡が作品に豊かな階調と陰影をもたらし、立体感や空気感が生まれます。また、制作の初期段階でグラファイト(鉛筆の芯のようなもの)による「あたりづけ」(下描き)が行われ、構図の検討や形のアタリを取るために使われました。そして、作品の輪郭を際立たせるために枠線が引かれています。紙という素材は、当時の素描において一般的であり、筆やペンの動き、インクの滲みといった画家の直接的な筆致が、作品に生き生きとした臨場感を与えています。

どのような意味を持っているのか エーフェルディンゲンの「水車のある北欧風景」は、オランダ絵画における風景表現に新たな地平を切り開いた点で重要な意味を持ちます。それまでのオランダの風景画が自国の平坦な自然を描くことが多かったのに対し、エーフェルディンゲンは北欧の険しくも雄大な自然を主題としました。水車は、荒々しい自然の中に人間の営みが調和して存在していることを示唆し、自然と人間の関係性というテーマを想起させます。また、素描作品であることから、画家の創造の場に立ち会っているかのような臨場感を鑑賞者に与え、彼がどのようにして自然の印象を捉え、画面に構成していったのかという、思考のプロセスを垣間見ることができるという深い意味を持っています。

どのような評価や影響を与えたのか エーフェルディンゲンの北欧風景は、オランダで非常に人気を博しました。その独特の主題と表現は、同時代の風景画家たちに大きな影響を与え、特にヤーコプ・ファン・ロイスダールといった後世の重要な風景画家にも影響を及ぼしたとされています。エーフェルディンゲンによって確立された北欧風景というジャンルは、オランダ絵画の多様性を広げ、バロック期の風景表現に新たな刺激をもたらしました。素描は、十六世紀から十七世紀にかけて、あらゆる造形の基本として高く評価されており、画家の技量と構想力のすべてが注ぎ込まれた芸術作品として認識されていました。スウェーデン国立美術館が所蔵する彼の素描作品が、世界最高峰のコレクションとして紹介されていることからも、彼の作品が美術史において高い評価を受けていることがうかがえます。