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ローマのサン・テオドーロ聖堂 / The Church of San Teodoro in Rome

ヤン・アセレイン / Jan Asselijn

ヤン・アセレインの「ローマのサン・テオドーロ聖堂」は、スウェーデン国立美術館が誇る素描コレクションの中でも、ルネサンスからバロックに至る時代の名品として展示される一枚です。

この作品の背景、経緯、意図について説明します。ヤン・アセレインは、1610年頃にディエップで生まれ、1652年にアムステルダムで亡くなったオランダの画家です。彼はエサイアス・ファン・デ・ヴェルデに師事し、風景画や動物画で才能を発揮しました。特に彼の芸術家としての形成に大きな影響を与えたのは、フランスやイタリアへの旅でした。彼はローマに滞在し、ピーテル・ファン・ラールのスタイルに影響を受け、また、ローマに滞在していたフランドル出身の画家グループ「ベントフェーヘルス」の一員としても活動しました。このローマでの滞在中に、彼はローマの街並みや周辺の風景を数多く素描し、その経験が後の「イタリアの風景」と称される彼の作品群に深く反映されることになります。アセレインはクロード・ロランのような明快なスタイルの風景画をオランダにもたらした初期の画家の一人としても知られており、本作もそうしたローマでの写生を通じて、異国の光や雰囲気を捉えようとした彼の意図がうかがえます。

次に、技法と素材についてです。この作品は「筆、褐色インク、褐色の淡彩、グラファイトによるあたりづけ、紙」という素材と技法で制作されています。グラファイトによるあたりづけで大まかな構図を取り、その後、筆と褐色インクで建物の輪郭や細部を描き出しています。さらに褐色の淡彩を用いることで、光と影の表現や空間の奥行きが加えられ、紙の地色も生かしながら、聖堂の量感や周囲の空気感が巧みに表現されています。素描は、絵画や彫刻の構想を練るための下絵としてだけでなく、それ自体が一つの完成した芸術作品として鑑賞されることもあり、本作もその類例と言えるでしょう。作者の手の跡が直接的に感じられる素描は、画家の思考や創造の過程を垣間見ることができる点で、特別な魅力を持っています。

この作品が持つ意味としては、アセレインがローマで目にした具体的な建築物、サン・テオドーロ聖堂を写実的に記録した「イタリアの風景」というジャンルの典型として挙げられます。オランダに帰国後も、彼はイタリアで得たインスピレーションをもとに多くの作品を描きましたが、本作のような素描は、彼がその場で感じた情景や光の印象を、より直接的かつ簡潔な形で捉えようとしたものです。異国情緒あふれるローマの景観をオランダの鑑賞者に紹介する役割も果たしたと考えられます。

評価と影響についてですが、ヤン・アセレインの作品、特に彼の描くイタリアの風景は、17世紀オランダ美術において重要な位置を占めています。彼は、イタリアの陽光や古典的な建築物を描くことで、当時のオランダの風景画に新たな視点をもたらしました。彼の作品は、後に続く「イタリア風」風景画の画家たちに影響を与え、オランダ絵画の多様性を広げることに貢献しました。彼の素描は、その直接的で生き生きとした表現が評価され、画家の思考過程を示す貴重な資料としても、また独立した芸術作品としても、美術史において高く評価されています。スウェーデン国立美術館の素描コレクションは、世界的に見ても質、量ともに充実した最高峰のコレクションとして知られており、本作品がその一つとして選ばれていること自体が、その芸術的価値と歴史的重要性を示すものです。