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二人の若い女性の頭部 / Two Heads of Young Women

ヨハネス・フォン・アヘン / Johannes von Achen

スウェーデン国立美術館 素描コレクション展に展示されているヨハネス・フォン・アヘン(ヨハン・フォン・アヘン、またはハンス・フォン・アヘンとしても知られる)の「二人の若い女性の頭部」について、以下の点をご説明いたします。

作品の背景、経緯、意図 「二人の若い女性の頭部」は、ドイツ出身でマニエリスム期の主要な画家の一人であるヨハネス・フォン・アヘン(1552年-1615年)によって制作されました。彼はドイツのケルンに生まれ、アントウェルペンで訓練を受け、1574年頃にイタリアへ渡り、約14年間ヴェネツィアを中心に活動しました。その後、ミュンヘン、特にプラハのルドルフ2世の宮廷で活躍し、公式肖像画家を務めました。彼の作品は、イタリアの様式とフランドルのリアリズムを融合させた独特のスタイルを持ち、フランドル美術とバロック美術の橋渡しをしたと評されています。

ヨハネス・フォン・アヘンは、肖像画、宗教画、神話画、寓意画など多岐にわたるジャンルで活躍しました。彼は特にヌードの描写に優れ、官能的な神話の場面はルドルフ2世に好まれました。また、胸像から上の人物を数人描いた風俗画も制作しており、しばしば自身や妻をモデルにしました。 この「二人の若い女性の頭部」も、おそらく習作、あるいは独立した風俗画として、人物の表情や感情、構図を探求するために描かれたと考えられます。素描は、当時の画家にとって、大作の準備段階として、あるいは芸術的アイデアを発展させるための個人的な表現手段として非常に重要な役割を担っていました。即興性や思考の軌跡が直接的に現れる素描は、画家の創作過程を垣間見せる貴重な資料です。

技法や素材 この作品は、「ペン、褐色インク、紙」という素材と技法で制作されています。ペンとインクは、バロック時代の素描家にとって基本的な道具でした。クイルペン(羽ペン)や葦ペンが使われ、線の太さや性質に多様な表現を与えることができました。 褐色インクは、しばしば没食子インク(鉄没食子インク)が用いられましたが、時間の経過とともに本来の黒から褐色へと変化していく特性があります。また、煤を水に浸して作るビストルも褐色系のウォッシュに使われました。 インクは、線による描写だけでなく、水で薄めたインク(ウォッシュ)を筆で塗ることで、色調の濃淡や形態の描写、雰囲気の表現に重要な役割を果たしました。これにより、バロック美術に特徴的な劇的な明暗表現(キアロスクーロ)が生み出されました。 紙は、当時の製法により、廃棄された布から作られていたため、温かみのある灰色がかった色調や、様々な繊維の斑点が見られることがありました。時には、紙の地の色を隠すために青く着色されることもありました。

作品が持つ意味 この作品が具体的にどのような意味を持っているかについての詳細は不明ですが、ヨハネス・フォン・アヘンの一般的な作風から推察すると、以下の可能性が考えられます。 一つは、写実的な人物表現、特に感情や表情の探求です。彼は表情豊かな肖像画を得意としており、この作品も二人の若い女性の頭部を通じて、心理描写や特定の感情を捉えようとした習作かもしれません。 もう一つは、ルネサンスからバロックにかけて流行した「頭部習作」としての意味合いです。これらの習作は、後の大作の人物像の参考となるだけでなく、それ自体が鑑賞に値する作品として制作されることもありました。 また、ルドルフ2世の宮廷でマニエリスム様式を牽延した彼の作品群は、優雅で引き伸ばされた人物像、官能的なヌード描写、複雑な構図が特徴とされており、この素描もその芸術的探求の一環として位置づけられるでしょう。

評価や影響 ヨハネス・フォン・アヘンは、その独特のスタイルと当時の芸術技法の熟練により、生前から高い評価を受けていました。彼はヨーロッパの多くの王侯貴族の宮廷で働き、特に皇帝ルドルフ2世からは、美術品の収集に関する助言者としても信頼されていました。彼の名声は国際的であり、そのデザインに基づく版画が広く流通したことからも、当時の美術界に与えた影響の大きさがうかがえます。 スウェーデン国立美術館のような世界的に有名な素描コレクションに所蔵され、今回の展覧会で展示されることは、この「二人の若い女性の頭部」が、ヨハネス・フォン・アヘンの芸術的実践と、ルネサンスからバロック期における素描の重要性を示す貴重な作品として評価されていることを示しています。 素描は、光、温度、湿度に敏感なため、展示が限定される貴重な媒体です。この作品が展示されることで、ヨハネス・フォン・アヘンの優れた技量と表現力、そして彼が当時の美術に与えた影響を直接感じ取ることができるでしょう。