クロード・ジェレ / Claude Gellée
クロード・ジェレ、通称クロード・ロランの作品「建築と人物」について、ご説明いたします。この作品は、スウェーデン国立美術館の「素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」で展示されています。
作品名:建築と人物 アーティスト名:クロード・ジェレ / Claude Gellée (通称 クロード・ロラン) 素材・技法:ペン、褐色インク、褐色の淡彩、紙
クロード・ジェレ(1600年代 - 1682年)は、フランス出身のバロック、フランス古典主義の画家ですが、生涯の大半をローマで過ごしました。彼は「理想風景画」の巨匠として知られており、自然そのものよりも美しく調和のとれた自然の景色を描くことを追求しました。彼の作品は、古代の概念に支配された美しさを持ち、しばしば古典的な廃墟や古典的な衣装を着た牧歌的な人物が描かれています。風景画がまだ重要なジャンルとは見なされていなかった時代に、彼は風景画に聖書や神話の物語を取り入れ、「歴史的風景画」の基礎を築きました。
クロードは、生計を立てるために12歳頃にローマへ移住し、ナポリで修行した後、ローマで風景画家アゴスティーノ・タッシに師事しました。タッシは、幻覚的な建築フレスコ画の主要なイタリア人画家でした。これにより、クロードは建築に関する訓練を受け、その後の作品に影響を与えました。
「建築と人物」のようなドローイングは、彼の制作過程において重要な役割を果たしていました。彼は自然からの直接的な観察スケッチや、構図を練るためのスタディとしてドローイングを制作しました。これらのドローイングは、遠景、近景、そしてフレーミングとしての植生や建築物といった景観の構成を考案するために使われました。 また、彼は贋作を防ぐために、自身の完成作品の構図を記録した素描集「真実の書(Liber Veritatis)」を制作するなど、ドローイングを自身の作品の記録としても活用していました。
この作品は「ペン、褐色インク、褐色の淡彩、紙」という素材と技法で制作されています。クロードは、ペンと、しばしば単色の水彩「淡彩」(通常は茶色ですが、時には灰色も使用)を用いたドローイングを多作に制作しました。下描きにはチョークが、ハイライトには様々な素材の白色が用いられることもありましたが、他の色、例えばピンクが使われることは稀でした。
クロードのドローイングは大きく三つのグループに分けられます。一つは、野外で制作された、主に風景のスケッチで、これらは高く評価され、他の芸術家にも影響を与えました。二つ目は、絵画の準備のための構図研究です。クロードは、それまでのどの風景画家よりも慎重に作品を準備しました。そして三つ目は、「真実の書」に記録された、完成した絵画を精密に写したドローイングです。 「建築と人物」は、彼の建築物への関心と、構図研究としてのドローイング制作の一例と考えられます。
クロード・ロランの建築ドローイングは、単なる写実的な描写に留まらず、彼の「理想風景」の概念と深く結びついています。彼は、彼の生涯で創造されつつあったルネサンスやバロック様式のローマの建築物をそのまま描くことは稀で、しばしば想像上の建物を創作するためにそれらを取り入れました。
彼の作品における古代の廃墟の描写は、時間の経過と構造の耐久性の両方を思い出させ、中世の「メメント・モリ(死を忘れるな)」の概念を想起させます。これらの絵画には、儚いものと永遠なものへの力強い受容が働いています。 「建築と人物」も、これらの想像上の、あるいは理想化された建築物を描くことで、彼の追求する理想的な風景世界の一部を表現していると考えられます。人物は、絵画の主題ではなく、風景の片隅に描かれる「おまけ」として扱われることが多かったとされていますが、それによって風景の雄大さや物語性を引き立てる役割を担っていました。
クロード・ロランは、1630年代後半にはイタリアの主要な風景画家としての地位を確立し、高額な報酬を得ていました。 彼は、風景画に太陽と差し込む日光を導入した最初の重要な芸術家の一人であり、それ以前は稀であった全画面を太陽光で照らす手法を確立しました。
彼の作品は、その後150年以上にわたり、フランスやイギリスの絵画に多大な影響を与え、理想化された風景画の伝統を確立しました。J.F.ブレーメン、C.J.ヴェルネ、R.ウィルソン、W.ターナーなど、後の西洋風景画家たちに大きな影響を与えています。 彼の緻密なドローイングは、後の芸術家、例えばコローなどにも影響を与えました。
スウェーデン国立美術館は、15世紀から現代までのヨーロッパの美術品、特に17世紀のオランダ絵画、18世紀のフランス絵画、そして50万点にも及ぶデッサンの卓越したコレクションを保有しており、今回の「素描コレクション展」もその貴重なコレクションの一部を公開するものです。 クロード・ロランの作品もその重要な一部として、ルネサンスからバロックにかけての素描の歴史と技術、そして理想風景画の発展を理解する上で、高い評価を受けています。