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横たわるアレクサンドロス大王 / Alexander and Roxane

フランチェスコ・プリマティッチオ / Francesco Primaticcio

「横たわるアレクサンドロス大王(Alexander and Roxane)」は、フランチェスコ・プリマティッチオ(Francesco Primaticcio)によって制作された素描作品です。この作品は、スウェーデン国立美術館が所蔵する素描コレクションの一つであり、2025年に国立西洋美術館で開催される「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」にて展示されます。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか? フランチェスコ・プリマティッチオは、1504年にイタリアのボローニャで生まれ、1570年にパリで亡くなったイタリア人のマニエリスム様式の画家、建築家、彫刻家です。彼は主にフランスで活動し、マントヴァでジュリオ・ロマーノのもとで修行した後、1532年にフランス国王フランソワ1世の宮廷で働くことになりました。 プリマティッチオは、ロッソ・フィオレンティーノと共にフォンテーヌブロー宮殿の装飾に携わり、生涯のほとんどをこの仕事に費やしました。このため、彼は初期フォンテーヌブロー派の重要な一人とされています。ロッソの死後、彼はフォンテーヌブローの美術監督に就任し、ニコロ・デッラバーテなどの新しい画家や彫刻家を手配しました。彼の作品の多くは、タペストリーのデザインや、仮面劇、パーティーのための精巧な装飾の設計といった宮廷での制作活動に関連していました。 現存する作品は少ないですが、多くの下絵や版画が残されています。国王フランソワ1世は彼の審美眼を信頼し、1540年と1545年の2回、彼をイタリアへ美術品買い付け旅行に派遣しました。 「横たわるアレクサンドロス大王」が具体的にどのような経緯で制作されたのか、特定の現存する大作のための習作であるかなどの詳細は不明なことが多いですが、プリマティッチオの素描作品の多くは、絵画や彫刻といった最終的な作品の構想を練るためのもの、あるいは失われた大作の記録として制作されたと考えられます。この主題であるアレクサンドロス大王とロクサネの物語は、古くから芸術作品のテーマとして好まれ、英雄の人間的な側面やロマンスを描くものとして、宮廷芸術において重要な意味を持っていました。

どのような技法や素材が使われているのか? この作品は、紙にペンと褐色インク、褐色の淡彩、赤チョークが用いられ、部分的に印づけ(incised)が施されています。 [作品詳細] 素描は、木炭、チョーク、ペンなどを用いて対象の輪郭、質感、明暗などを表現する、線描中心の平面作品を指します。 プリマティッチオは、このような多様な画材を組み合わせることで、構図の検討、人物のポーズの描写、光と影の表現を行いました。

  • ペンと褐色インク:明確な線を描き、人物の輪郭や細部を表現するのに使われます。
  • 赤チョーク:肉体の柔らかさや温かみ、影の部分の深みを表現するために用いられることが多く、また下描きや構図のあたりづけにも使われました。
  • 褐色の淡彩:インクの上に薄く塗ることで、立体感や陰影、光の広がりを表現し、作品に深みと奥行きを与えます。
  • 部分的な印づけ:紙の表面を軽く刻む技法で、おそらく最終的な作品に転写する際の下準備、あるいは作品に特定のハイライトや質感を加えるために用いられた可能性があります。 これらの技法は、プリマティッチオがマニエリスム様式の中で人物の優雅さや動的な表現を追求する上で重要な役割を果たしました。彼の描く人物はしばしば脚が長めに描かれるなど、マニエリスム的な特徴が見られます。

どのような意味を持っているのか? 作品名にある「アレクサンドロスとロクサネ」は、古代マケドニアの王アレクサンドロス大王が、ソグディアナの王族の娘ロクサネと結婚したという歴史的・伝説的な出来事を主題としています。この物語は、アレクサンドロス大王の人間的な魅力や、異文化間の融和の象徴として、多くの芸術家によって描かれてきました。 プリマティッチオのこの素描は、横たわるアレクサンドロス大王の姿を中心に描かれており、英雄の休息や、ロクサネとの出会い、あるいは結婚といった私的な瞬間を捉えている可能性があります。マニエリスムの時代には、神話や歴史上の人物の感情や心理状態を繊細に、あるいはドラマティックに表現することが好まれました。この作品も、アレクサンドロス大王の内面や、ロクサネとの関係性を暗示するような、寓意的な意味合いを含んでいると考えられます。素描は、画家の思考の過程を直接的に示すものであり、この作品に込められた意味は、プリマティッチオがこの主題をどのように解釈し、表現しようとしたのかを垣間見せてくれます。

どのような評価や影響を与えたのか? フランチェスコ・プリマティッチオは、フォンテーヌブロー派の主要な芸術家として、16世紀後半のフランス美術界に多大な影響を与えました。彼のマニエリスム的な構図や、人物の脚を長めに描く技法は、後の世代の芸術家に模倣されました。 多くのプリマティッチオの素描が、完成作品が失われた今となっては、彼の芸術性や構想力、技量を知る上で非常に貴重な資料となっています。スウェーデン国立美術館が所蔵する素描コレクションは、質、量ともに世界最高峰と評価されており、その中核をなす作品群の一つとして、「横たわるアレクサンドロス大王」も高く評価されています。 素描という形式は、作者の手の跡がより直接的に感じられ、制作の試行錯誤の過程を垣間見ることができるため、まるで作家の創造の場に立ち会っているような臨場感を味わえることが最も重要な魅力とされています。 この作品も、プリマティッチオの創造の瞬間を伝えるものとして、研究者や鑑賞者にとって重要な意味を持っています。このような素描作品を通じて、私たちはマニエリスム様式の繊細な美意識や、当時の宮廷芸術の趣向を深く理解することができます。