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処女の頭部 / Head of the Virgin

シャルル・ド・ラ・フォッス / Charles de La Fosse

シャルル・ド・ラ・フォッスによる「処女の頭部」は、スウェーデン国立美術館に収蔵されている素描作品であり、ルネサンスからバロックまでの素描コレクション展で展示されています。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか? シャルル・ド・ラ・フォッスは1636年にパリで生まれ、1716年に亡くなったフランスの画家です。彼は17世紀から18世紀初頭にかけて活躍し、バロック様式からロココ様式へと移行する過渡期の重要な芸術家とされています。師であるシャルル・ル・ブランの指導のもと、国王ルイ14世の大規模な装飾プロジェクトに携わりました。1658年頃から5年間イタリアに滞在し、ローマでラファエルや古代の巨匠たちを、ヴェネツィアでティツィアーノやパオロ・ヴェロネーゼといった16世紀のヴェネツィア派の巨匠たちを研究しました。このイタリアでの経験は、彼の色彩感覚と光の表現に大きな影響を与えました。彼はイタリアから帰国後、ルーブル宮やチュイルリー宮、そしてヴェルサイユ宮殿の装飾を手がけ、王室からの依頼を多く受けました。また、教会からの個人的な依頼も数多くこなしています。

「処女の頭部」のような宗教的な素描作品は、通常、より大規模な絵画作品のための準備習作として描かれることが一般的です。バロック時代、カトリック教会はプロテスタントの宗教改革に対抗する反宗教改革の一環として、人々の信仰心を刺激し、神への献身を促すために芸術を積極的に利用しました。このため、ドラマチックで感情豊かな宗教画が多く制作され、素描はその構図や人物の表情、ポーズを検討するための重要な手段でした。

特定の作品についての詳細な情報は見つかりませんでしたが、モルガン・ライブラリーが所蔵する「ヴェールをかぶった女性の頭部」という素描は、ラ・フォッスが1682年にトゥールーズのカルメル会教会のために描いた「聖母の奉献」という絵画のための準備習作であることが示されています。この素描は、幼いマリアが神殿に到着する際に司祭の隣に立つ年配の女性の顔を描いたものです。このことから、「処女の頭部」も同様に、聖母マリアを主題とした絵画の一部として、その顔や表情、または構図の要素を検討するために描かれた習作である可能性が高いと考えられます。

どのような技法や素材が使われているのか? この作品は「ペン、褐色インク、褐色の淡彩、紙」という技法と素材で制作されています。

  • ペンと褐色インク: 主に輪郭線や細かい描写に用いられます。バロック期の素描では、線による正確な描写が重視されました。
  • 褐色の淡彩(ウォッシュ): 水で薄めた褐色インクをブラシで塗ることで、陰影や量感、光の表現に深みを与えます。光と影の強いコントラスト(キアロスクーロ)はバロック美術の大きな特徴であり、淡彩はこの効果を出すのに非常に効果的です。
  • 紙: 当時の素描に一般的に用いられる支持体です。

ラ・フォッスは「トロワ・クレヨン(3色チョーク)」と呼ばれる、赤、黒、白のチョークを組み合わせる独特の技法も用いていました。これはルーベンスから学び、後にワトーに影響を与えた技法です。しかし、本作品はペンとインク、淡彩であるため、異なる表現を追求したものと言えます。

どのような意味を持っているのか? 「処女の頭部」というタイトルから、この作品が聖母マリアの頭部を描いたものであることは明らかです。キリスト教美術において、聖母マリアは信仰、純粋さ、母性の象徴として非常に重要視されてきました。バロック時代は反宗教改革の時代であり、カトリック教会は聖母マリアの役割を強調し、彼女への崇敬を深めることを奨励しました。

この素描は、聖母マリアの顔の表情や精神性を捉えようとしたものでしょう。習作として、感情の表現、理想化された美しさ、あるいは特定の物語(例えば受胎告知やキリストの降誕など)におけるマリアの心理状態を、後の絵画作品に反映させるための探求であったと考えられます。単なる顔の描写ではなく、信仰の対象としての聖母の内面的な美しさや静けさ、あるいは祈りや慈悲の感情を伝えることを意図していた可能性が高いです。

どのような評価や影響を与えたのか? シャルル・ド・ラ・フォッスは生前、「同時代最高の装飾画家」として知られていました。 彼は師であるル・ブランの厳格な古典主義から脱却し、ヴェネツィア派の色彩感覚を取り入れたことで、「色彩家たちの論争」において色彩派の代表的な存在となりました。 この論争は、線描を重視する派と色彩を重視する派の間で繰り広げられたもので、彼の色彩豊かなスタイルは18世紀初頭の美術に大きな影響を与え、ロココ様式の先駆けとなりました。

彼の素描は、その色彩豊かな絵画作品と同様に、生き生きとした表現が特徴です。特にアントワーヌ・ワトーに大きな影響を与え、彼をパリの芸術界に紹介しました。 ラ・フォッス自身は近年まで忘れ去られていた時期もありましたが、彼の作品はルーブル美術館、ヴェルサイユ宮殿、アンヴァリッド教会などの主要な場所で確認できます。

「処女の頭部」のような素描作品は、彼の制作過程における重要な一端を示しています。これは、大規模な宗教画や装飾画における人物像、特に聖母マリアのような重要なモチーフを、いかにして感情豊かに、そして視覚的に魅力的に表現するかを探求した成果であると言えるでしょう。彼の素描は、その後の世代の画家たち、特にロココ様式の画家たちにとって、色彩と光を用いた自由な表現の模範となりました。