シャルル・ド・ラ・フォッス / Charles de La Fosse
シャルル・ド・ラ・フォッスによる素描「聖母被昇天」について、詳細にご説明します。
まず、作品がどのような背景や経緯、意図で作られたのかについてです。
シャルル・ド・ラ・フォッスは、一六三六年にパリで生まれたフランスの画家で、ルイ十四世の治世において最も優れた装飾画家の一人として知られています。彼は幼い頃から、王の寵愛を受けていたシャルル・ル・ブランの工房で学び、大規模な装飾画の制作に携わりました。一六五八年頃からはイタリアに渡り、ローマでラファエロなどの巨匠を、ヴェネツィアではティツィアーノ、ヴェロネーゼといったヴェネツィア派の色彩豊かな作品を研究しました。このイタリアでの経験が、彼の色彩感覚に大きな影響を与えています。
ラ・フォッスのキャリアの大部分はフランスで、特にヴェルサイユ宮殿やアンヴァリッドなど、王室の主要な装飾プロジェクトで活躍しました。彼は教会からの多くの私的な依頼も受けていました。
「聖母被昇天」という主題は、聖母マリアが地上での生涯を終えた後、その肉体と魂が神の力によって天に上げられたというカトリック教会の信仰を表すものです。 このテーマは、特に教会や祭壇画の装飾において非常に人気がありました。本作品のような素描は、しばしば大規模な絵画やフレスコ画のための準備段階として制作されました。そのため、この「聖母被昇天」の素描も、教会や王室からの、より大きな装飾プロジェクトのための習作、あるいは構図を検討する意図で描かれた可能性が高いと考えられます。
次に、どのような技法や素材が使われているかについてです。
この作品は、「ペン、褐色インク、褐色の淡彩、紙」という素材と技法で制作されています。これは、バロック期からロココ期にかけての素描に典型的なものです。ペンとインクで線描を施し、その上から淡い褐色のウォッシュ(淡彩)で明暗や立体感を表現しています。この技法は、画家の素早い着想や構図の検討、光と影の効果の探求に適しており、完成作に至るまでの試行錯誤の過程を示すものです。
続いて、どのような意味を持っているのかについてです。
作品の主題である「聖母被昇天」は、キリスト教美術において重要なテーマです。聖母マリアが地上での死後、肉体も魂も伴って天に挙げられたという信仰を表し、天国での栄光と希望を象徴します。 キリストの「昇天」(自らの力で天に上る)とは異なり、マリアは神の導きと天使の力によって「被昇天」(受動的に上げられる)したとされています。 この場面は、通常、天使たちに囲まれながら天へと上昇していくマリアの姿が描かれ、下方には使徒たちが空になった墓を見上げている様子が配されることが多いです。 この素描では、マリアが天へと迎えられる神聖な瞬間が、動きと感情豊かに表現されていると推測されます。
最後に、どのような評価や影響を与えたのかについてです。
シャルル・ド・ラ・フォッスは、一七世紀末から一八世紀初頭にかけてのフランス絵画において、重要な役割を果たした画家です。彼は「同時代で最も優れた装飾画家」と評され、その色彩豊かなスタイルは、一八世紀初頭の芸術に大きな影響を与えました。
彼の作品は、シャルル・ル・ブランが確立した古典主義的な様式から、より自由で色彩豊かなロココ様式への移行期を示しています。ラ・フォッスの作品に見られる明暗法や「目を欺くような」断ち切られた色彩の使用、そして構図全体の一貫性は、一八世紀初頭の芸術に影響を与えました。 彼は、色彩を重視する「色彩主義者」の一人として、「プルッセ派」(デッサンを重視するル・ブラン派)との間で起きた「色彩論争」のきっかけを作ったことでも知られています。
美術史家アンソニー・ブラントは、ラ・フォッスについて「ワトーが学ぶことで利益を得られたほとんど唯一の一七世紀フランスの芸術家」と述べ、彼が後に続くロココ絵画の巨匠であるアントワーヌ・ワトーにも影響を与えた可能性を示唆しています。 実際に、ワトーはラ・フォッスと親交を結んでいました。
この「聖母被昇天」のような素描も、彼の絵画作品と同様に、生き生きとした表現と色彩感覚の萌芽を示しており、当時の芸術における彼の革新的な位置づけを裏付けるものと言えるでしょう。彼の作品は、装飾美術の分野で多大な貢献をし、フランス絵画の発展において重要な足跡を残しました。