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若い女性サークルのデッサン、頭部を右向きの女性 / Portrait of a Young Lady in Circle, Head Turned to the Right

アントワーヌ・コワペル / Antoine Coypel

アントワーヌ・コワペルによる「若い女性サークルのデッサン、頭部を右向きの女性」について、詳細を説明します。

どのような背景・経緯・意図で作られたのか?

アントワーヌ・コワペルは、17世紀後半から18世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家で、王室の筆頭画家を務めた宮廷画家として名声を確立しました。彼は、父である画家ノエル・コワペルから幼少期より絵画を学び、1673年から1675年までローマに滞在しました。ローマではルネサンスの巨匠たちの作品や古代彫刻に触れ、特にイタリア・バロックの画家コレッジョから強い影響を受けました。20歳で王立絵画彫刻アカデミーの会員に選出されるなど、若くしてその才能を認められ、ヴェルサイユ宮殿をはじめとする多くの宮殿の装飾画を手がけました。彼の作品は、バロック様式の影響を受けつつも、独自の洗練された美しさを持つことが特徴です。

本作品「若い女性サークルのデッサン、頭部を右向きの女性」は、スウェーデン国立美術館の素描コレクション展で展示される作品の一つです。 スウェーデン国立美術館の素描コレクションは、質、量ともに世界有数の充実度を誇っており、ルネサンスからバロックまでの名品が収蔵されています。 素描は、画家の思考過程や技量を直接的に示すものであり、絵画制作における構想を練る過程で多く描かれました。 本作品も、コワペルの制作プロセスにおける習作、あるいは独立したデッサンとして制作されたと考えられます。バロック期のフランス絵画は、アカデミーが美術行政の中心となり「アカデミズム」を形成しました。 コワペルもアカデミーで要職を歴任しており、彼のデッサンはアカデミーの教育や当時の美術観を反映している可能性があります。

どのような技法や素材が使われているのか?

作品の詳細情報に明記されている通り、このデッサンには以下の技法と素材が使われています。 ・ペンと褐色インク ・褐色の淡彩(ウォッシュ) ・黒チョークによるあたりづけ(下描き) ・黒チョーク ・赤チョーク ・黒の枠線 ・紙

これらの素材と技法は、17世紀から18世紀にかけてのバロック期の素描において一般的に用いられたものです。特にチョークやインクは、素描の表現力を高めるために多用されました。褐色のインクや淡彩は、明暗の階調や立体感を表現するのに適しており、黒チョークは輪郭線や影の深い部分に、赤チョークは肌の質感や温かみのある表現に用いられることがありました。 黒の枠線は、作品を引き締め、完成度を高める役割を果たしています。この複合的な素材使いは、コワペルがデッサンにおいても豊かな表現を追求していたことを示しています。

どのような意味を持っているのか?

「若い女性サークルのデッサン、頭部を右向きの女性」という作品名から、特定の人物の肖像画の習作、あるいは理想的な女性像の探求を目的としたデッサンである可能性があります。アントワーヌ・コワペルは肖像画家としても優れており、多くの貴族や王族の肖像画を描きました。 バロック期の美術は、感情の自由な表現、動きのある構図、豪華な装飾性が特徴とされます。 特に肖像画においては、個人の性格や感情、社会的地位を表現することが重視されました。

このデッサンが最終的な絵画のための習作であった場合、若い女性の頭部の角度や表情、構図などを検討する目的で描かれたと考えられます。また、「サークル」という言葉が示すように、特定の集団や文脈における女性像を描こうとした可能性も考えられます。素描は、画家のアイデアを具現化し、試行錯誤する過程そのものであるため、この作品にはコワペルの造形に対する探求心や、女性の美に対する関心が込められていると言えるでしょう。

どのような評価や影響を与えたのか?

アントワーヌ・コワペルは、フランス美術界の頂点に立った王室の筆頭画家であり、その作品は同時代の画家たちに大きな影響を与えました。 彼はバロック様式の影響を受けつつも、光沢を感じさせる硬質的な色彩と、劇的でやや大げさな人物の姿態、堅牢な画面構成による古典主義的な作品を制作しました。晩年には、明瞭な色彩による軽快で優美なロココ様式へと作風を変化させ、古典様式とロココ様式の橋渡し的存在となりました。

本作品のようなデッサンは、彼の絵画作品の基礎をなすものであり、その優れた描写力や構図感覚は、彼の芸術家としての技量と構想力を示しています。 スウェーデン国立美術館にコレクションされていること自体が、本作品の美術史的な価値と重要性を裏付けています。素描は、完成された絵画作品とは異なり、画家の手の跡がより直接的に感じられるため、制作の試行錯誤の過程や、作家独自のこだわりを垣間見ることができるという点で、高い評価を受けています。 コワペルのデッサンは、息子のシャルル=アントワーヌ・コワペルをはじめとする後進の画家たちにも影響を与え、フランス美術の発展に貢献しました。