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若い女の頭部 / Head of a Young Woman

アントワーヌ・コワペル / Antoine Coypel

アントワーヌ・コワペル作「若い女の頭部」について、詳細にご説明します。

この作品は、スウェーデン国立美術館が所蔵する素描コレクションの一つです。

制作の背景・経緯・意図

アントワーヌ・コワペルは、一六六一年にパリで生まれ、一七二二年に亡くなったフランスの画家です。彼は父ノエル・コワペルも画家であり、十二歳で父と共にローマに滞在し、美術の基礎を学びました。ローマでは、ルネサンスの巨匠たちや古代彫刻に触れ、特にイタリア・バロックの画家コレッジョの作品から強い影響を受けました。

コワペルは若くして才能を認められ、二十歳で王立絵画彫刻アカデミーの会員に選ばれました。 その後、ヴェルサイユ宮殿をはじめとする多くの宮殿の装飾画を手がけ、一七一六年には王室の筆頭画家「premier peintre du roi」という最高位の称号を得ました。

「若い女の頭部」のような素描作品は、一般的に画家が後の油彩画などのための準備習作として描くことが多かったと考えられます。特定の表情やポーズ、光の当たり具合などを研究し、人物表現の基礎を固めるために制作されました。また、単独の人物像として、人間の感情や若々しさ、あるいは理想的な美を追求する目的で描かれた可能性もあります。アントワーヌ・コワペルは、劇的で大げさな人物の姿態を持つ古典主義的な作品を手がける一方で、晩年にはロココ様式へと作風を変化させており、この作品もその制作過程や様式探求の一環として描かれたと推測されます。

技法や素材

この作品は「赤チョーク、紙」を用いて制作されています。ハーバード美術館には「若い女の頭部」と題されたコワペルに帰属される同様の作品があり、それは「赤チョークと白チョーク、およびグラファイトの痕跡が、黄褐色のアンティークな敷き紙に描かれている」と説明されています。

赤チョークは、その温かみのある色調が肌の表現に適しており、バロック期からロココ期にかけて、人物の素描に広く用いられました。コワペルの素描は、繊細な顔の表情や特徴、奥行きや柔らかさを表現することに長けていたとされています。 チョークを巧みに操り、光と影の描写を通して、対象の存在感や内面を表現する技法が用いられています。

作品が持つ意味

「若い女の頭部」は、様々な意味を持つ可能性があります。

一つには、より大規模な歴史画や神話画のための習作であったと考えられます。物語の登場人物の表情や頭部の表現を事前に検討するための、重要なステップでした。

また、特定の個人を描いた肖像画である可能性も否定できませんが、作品名が「若い女の頭部」となっていることから、特定の人物というよりも、普遍的な「若い女性」の頭部として、あるいは理想的な女性像の探求として描かれたとも考えられます。コワペルの「少年の頭部」に関する説明では、純粋さや若々しさ、感情表現が挙げられています。

さらに、画家自身のデッサン技術の向上や、人体の観察を深めるための訓練、アカデミックな研鑽の一環として制作された可能性も考えられます。

評価と影響

アントワーヌ・コワペルは、一七世紀末から一八世紀初頭にかけてのフランス美術界において、最も成功し、影響力のある画家の一人でした。王室の筆頭画家という最高の地位に就いたことからも、当時の美術界における彼の高い評価が伺えます。

彼はフランス古典主義と初期ロココ美術の橋渡し役を務めた画家とされており、その作品は、古典主義的な堅牢な構成とバロック様式の劇的な表現を融合させつつ、後には軽やかで優美なロココ様式へと変化しました。

コワペルの素描作品は、彼の画業の基礎を支え、後に続く画家たちにとっても重要な手本となりました。特に、人物の表情や感情を捉える描写力は高く評価され、当時のフランス絵画の発展に貢献しました。